デ・ニーロを4年待たせた男が世界のNOBUになるまで
文藝春秋グラビア「日本の顔」、撮影はニューヨークからでしたね。レストラン「NOBU」の共同経営者であるロバート・デ・ニーロに、一緒に写真におさまらないかと頼むと、二つ返事で快諾してくれて。忙しい合間を縫って自宅からお店に駆けつけてくれました。
映画撮影のためスキンヘッドにしていたので、お互いの頭をなでながら「兄弟みたいだね」なんて冗談を言い合った。でも、彼は僕にとって本当に「兄弟」と言っても過言ではないほど、30年来のかけがえのないパートナーなんです。
デ・ニーロとの最初の出会いは、1988年。ロサンゼルスの「Matsuhisa」(以下、マツヒサ)に、映画『キリング・フィールド』や『ミッション』の監督で知られるローランド・ジョフィが彼を連れてきました。紹介された時はどんな人なのか全然知らなかったんです。当時は流行っている映画をほとんど観ていなかったし誰が有名人なのか気にする余裕もなかったですから。
彼は「銀ダラの西京焼き」と日本酒の「北雪」をいたく気に入ってくれました。以来、常連となり「ニューヨークで一緒に店をやらないか」と誘われましたが、一度は断ります。まだマツヒサはオープンしてわずか数年で利益も出ていない。それにそれまでの経験から、もう共同経営は懲り懲り。断った後もお店に度々来てくれ、常連さんとしての付き合いは続きました。
ニューヨーク進出を断ってから4年後のこと。彼が「もうそろそろいいだろ?」と言うんです。この間、89年に『FOOD&WINE』誌でアメリカのBest New Chefの10人に選ばれ、93年には『ニューヨーク・タイムズ』で、世界トップ10にマツヒサが選ばれました(日本からは「吉兆」が選ばれた)。
デ・ニーロは僕に紹介した物件でアメリカ料理のレストランを開店していましたから、もうオファーはないと思っていたんです。彼の申し出に驚くと同時に「ずっと待っていてくれたんだ」と感動しました。彼がハリウッドスターなのは関係なく、この人なら信用できる。そう思い至り、94年8月、デ・ニーロとニューヨークの倉庫街・トライベッカ地区にNOBU1号店をオープンすることになったんです。
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source : 文藝春秋 2023年8月号