2021年にスタートした三浦しをんさんの小説連載「ゆびさきに魔法」が全24話をもって、この度ついに完結しました。
商店街の一角でネイルサロン「月と星」を営むネイリスト月島美佐と、そこへ“弟子入り”した大沢星絵を中心に、さり気なく、それでいて力強く日々を彩るネイルの世界が描かれます。
最高の煮付けをふるまう“元・巻き爪”の居酒屋の大将や、姉御肌でいつも白菜や大根をおまけしてくれる八百屋のおかみさん、月島を「おう、爪屋さん」と呼ぶせんべい屋のおじいさんなど……商店街のチャーミングな面々もまた、この物語の大きな魅力のひとつです。
編集部内でも惜しまれながら最終回を迎えた連載ですが、開始当初、三浦さんは頭を悩ませていました。
「果たして、これまであまりネイルと縁がなかったであろう本誌読者の方々に受け容れてもらえるだろうか」
連載も3回目を迎えた頃、編集部に一通の手紙が届きます。
「20年ほど前に参加した遠縁の結婚式で、新婦がネイルサロンを開くと聞き、『へエーそんなものあるの、商売になるの』と驚いた。その後、特にネイルには関心のない人生を送っていたが、三浦さんの軽快な筆致に引き込まれ、この先どんな『魔法』の世界があるのだろう、と次号への楽しみは尽きない」
送ってくださったのは、89歳の男性読者。「受け容れてもらえた!」、喜びの瞬間でした。
そうして順調に走り出した連載ですが、担当編集の私にもまた、ひとつ悩みがありました。
「小説の編集者って、何をすればいいの?」
当時、私は入社2年目で、新入社員として配属されたこの編集部での最初の1年を終え、ようやく雑誌作りのサイクルを知ったくらいのひよっこでした(入社4年目の今も「ひよこ」くらいですが……)。
入社して何人も作家の方々の担当をしたことがあるわけでもなければ、学生時代に人に語れるような経験をしていたわけでもない“丸腰”の私が送る原稿への感想を、三浦さんはいつも「なるほど、そんな読み方があったか」と柔らかく受け止め、さらに“感想への感想”をしたためたお返事をくださいました。
さらに、決して取材の手を抜かず、さまざまな立場のネイリストの方はもちろん、ネイル用品を扱う会社の方々にまで直接お話を聞き、書き進めていらっしゃる姿も印象的でした。
あることを確認するために聞いていたお話から別の面白いエピソードを見つけ、新たに場面が練り上げられていくこともしばしば。誰かを傷つけたり、無視するような表現になっていないか、いかなる時も心を配り続けられている。
そんな何事にもしなやかに反応する感性が一つの小説を生み出すさまこそ、まさに魔法のようでした。
もう一人、この連載になくてはならなかった方がいます。2年にわたり素敵なイラストを描き続けてくださった漫画家の内田美奈子さん。毎月、〆切に追われる中で原稿を丁寧に読み込み、作品の世界を膨らませてくださいました。
場面のカットだけでなく、主人公の月島のネイルへの迸る想いをイメージしたファンタジー溢れる一枚まで、どれも小説とともにまばゆい光を放っています。
三浦さん、内田さん、長きにわたる連載を本当にありがとうございました。
そしてご愛読くださった読者のみなさまに心から感謝申し上げます。
(編集部K)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル