評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。
日本語、大丈夫か? そう思うことが増えている。たとえば国際的競争力を高めるには何より英語力だと、政府も経済界も英語教育の早期化に前のめりだ。
しかし日本語で考え、表現する力の育成を待たずに英語学習に大量の時間を割けば、母語を使う意義が見出せなくなって英語ばかりで話すようにならないか。
山口仲美『日本語が消滅する』(幻冬舎新書)によると、「自発的に他言語にのりかえる」というのが世界中で多くの言語が消滅してきたパターンのひとつだという。進行中の英語教育の早期化が、こうしたのりかえにつながるのを懸念する著者は、日本語力と英語力を両立させる教育法を提案しているが、既定の流れを変えるのは難しかろう。
しかし、日本語は簡単に消滅してもよい、三流の言語だったのか。八鍬友広『読み書きの日本史』(岩波新書)は、話し言葉しかなかった古代日本語が漢字をいかに受容したかに始まり、漢文を日本語で読み下す技術の成立過程や、それを教えるシステムの変遷の歴史を辿る。
このような日本語独特の読み書き史が意外な収穫をもたらした。日本語を文字表記する際にかつて用いられた万葉仮名と呼ばれる漢字があるが、その使い分けの法則を分析することで古代の日本語では「イ」「エ」「オ」の母音が2通りあったことがわかる。こうして釘貫亨『日本語の発音はどう変わってきたか』(中公新書)は、消えてしまった往年の日本語の発音を、書き言葉を資料として「再建」する方法を紹介する。
日本語の世界では「1000年を隔てた『万葉集』や『古今和歌集』の和歌が間違いなく日本語で詠まれていることを直観することができる」。それは日本語が外の言語文化と接しつつも大きく変質せずに守られてきた結果であり、欧州の言語にはない特徴だと著者はいう。
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source : 文藝春秋 2023年9月号