■企画趣旨
世界的なパンデミックから3年、ウクライナ危機から1年が経過し、資源の高騰、金利上昇による購買力の低下など、企業のCFOや財務担当者の運用コスト高騰に対する懸念は日々高まりを見せている。こうしたビジネス環境の変化や既存のビジネスモデルの破壊によって持続可能性が危機に瀕しており、競争力を維持するべく、先端テクノロジーの活用やより高度な経営指標の採用による経営管理の高度化、企業価値の向上など、新たな機会を創出していくことが求められています。
こうした不透明な経営環境の中、より効率的な経営に舵を切る企業が増えており、その指標として「ROIC」(投下資本利益率、Return on Invested Capital)への注目が集まっている。ROICとは事業活動のために投じた資金(投下資本)を元に、企業がどれだけリターンを生み出したかを把握する指標。より少ない資本でより多くの利益を創出することが効率的と言える。
持続的な企業価値向上の本丸ともいえる「ROIC」を正確に理解し、投下資本が十分な水準の利益を生み出しているか、より洗練していくことはできないか、それによって事業が生み出すキャッシュフローを増加できないか、といった好循環サイクルを生み出すことで「利益の質」「経営の質」を探求していくことが今、求められているのではないでしょうか。
2022年8月の開催に続く、第二弾の開催となる本カンファレンスでは「“稼ぐ力”を正確に把握し、迅速な”意思決定“を強力に推進する『ROIC』の神髄」テーマに、「ROIC経営」の基本的な考え方や実践、採用後の成果、投資家との建設的な対話の実現など多様な視点から考察した。
■基調講演
長期的に資本コストを上回る利益を生む企業こそが価値創造企業である
~ ROICからひも解く、稼ぐ力の本質理解 ~
一橋大学CFO教育研究センター長
一橋大学名誉教授
伊藤 邦雄氏
1951年千葉県生まれ。75年一橋大学商学部卒業、92年同大教授。現在は同大CFO教育研究センター長で、名誉教授。2014年に座長としてまとめた国の最終報告書「伊藤レポート」は経済界に大きな影響を及ぼした他、コーポレートガバナンス、無形資産やESGに関する各種の政府委員会やプロジェクトの座長を務める。20年9月に経産省の研究会の成果として「人材版伊藤レポート」、22年5月には「人材版伊藤レポート2.0」を公表し、日本企業に対し、持続的な企業価値の向上と人的資本の重要性を説いている。22年8月に設立された官民連携組織である「人的資本経営コンソーシアム」の会長を務める。
企業価値を持続的に高められなければ、市場から淘汰される。これは冷徹な大原則だ。企業価値経営とは、二項対立に挑み、「総合格闘技」を進化し続けること。神は細部に宿るが、価値は統合から生まれる。21世紀の企業価値経営にあたっては財務と非財務の融合が必要であり、投資家やステークホルダーとの対話も必要とされている。
◎メッセージ
・会計は経営に必須の事業の言語。
・取締役会メンバーは、職務の違いやスキルの違いを超えて、会計・財務のリテラシーを高めるべき。
・経営の使命は長期的に企業価値を高めること。
・企業価値経営を進めるには、資本コストに対する理解とそのマネジメントが必要。
・ROIC(Return On Investment Capital=投下資本利益率)を重要経営指標(KPI)とすることは、バランスシート経営を行うこと。
・ROE(Return On Equity=自己資本利益率)とROICの双方に目配りすること。
・ROICは事業ごとの管理に向いている。
日本の経営者は資本市場の大原則や資本コスト概念を理解していない。経営トップの財務会計リテラシーは低く、BSの左側と右側の関係性/内部留保の本質/「付加価値」について無理解である。取締役会で資本コストを議論していない/KPIの選択は戦略的な意思決定であることに対する無理解/なぜ配当性向30%なのかの無理解、という問題もある。
まずは会計・財務のリテラシーの確認をしてほしい。ROE、NOPAT※……、経営を語る最低限の略語、会社の利益、現預金、配当、利益余剰金(内部留保)、貸借対照表と損益計算書など、経営者が向き合うべき会計・財務のイシューは沢山ある。
※NOPAT=Net Operating Profit after Tax、利息控除前税引後営業利益
KPIの選定は経営のテーマそのものだ。ROE/ROICそしてEV(経済的付加価値/資本コスト)にKPIが変わってくると「風景」が変わって見えるし、バランスシートの見方が変わる。日本企業の株価の低迷、ROEの低位集中は、事業収益力の低さが主因。2014年の「伊藤レポート」では、収益性、特に「資本生産性」という概念を強調し、ROE8%以上を提唱した。
ちなみにROE8%とPBR1倍はほぼ符号する。国内のPBR1倍割れ企業は40%以上と、欧米企業に比べて高い水準にある。日本企業の将来の事業環境変化への対応やそれに伴う収益性に対して、厳しい評価が下されていると言える。
ちなみにROE8%とPBR1倍はほぼ符号する。国内のPBR1倍割れ企業は40%以上と、欧米企業に比べて高い水準にある。日本企業の将来の事業環境変化への対応やそれに伴う収益性に対して、厳しい評価が下されていると言える。
◎資本コストとROICの使い方
会計上の利益と、資本(株主)コストを引いたEVA=経済的付加価値の2つのボトムラインに精通すべきだ。EVAは企業価値増減の指標となる。
EVA=(ROICマイナスWACC※)×投下資本。EVAスプレッド=ROE-株式資本コスト、と、ROICスプレッド=ROICマイナスWACCの2つが重要。つまり、ROIC経営をするということは、同時にWACCを計算するということでもある。
※ROIC=NOPAT÷投下資本 WACC=資本コスト÷投下資本。加重平均資本コストつまり借入にかかるコストと株式調達にかかるコストを加重平均したもの
ROICスプレッドを継続的に見て、①収益改善 ②高付加価値 ③整理回収 ④資本コスト、それぞれの判断を行い、事業ポートフォリオの最適化を行いたい。先述のように、KPIを変えると見える景色が大きく変わる。資本市場(投資家)にとって重要なのはEVAスプレッドとROEスプレッド。経営判断、事業ポートフォリオの最適化に使える有力な武器になる。大事なのは、利益を生む部署から企業価値を生む部署・活動へ、である。
資本コストを把握している企業は増えているが、プライム市場上場企業の75%がPBR1倍未満。資本効率性が資本コストを下回っている企業が多すぎる非常に重い現実である。把握した資本コストは、事業投資や縮小などの意思決定に反映しなければならない。オムロンの、逆ツリー展開を通じ現場まで繋がったKPI/PDCAの実行や、経済価値評価および市場価値評価を行い最適な資源配分を実行するポートフォリオ・マネジメントは、ROIC経営の好例である。
4月14日に上梓した私の著書『企業価値経営』(日本経済新聞出版)も参考にされたい。
■課題解決講演(1)
企業価値の向上に欠かせない経理部門のDXとは
株式会社マネーフォワード
執行役員 経理本部 本部長
松岡 俊氏
1998年ソニー(株)入社。各種会計税務業務に従事し、決算早期化、基幹システムPJ等に携わる。その後、イギリスにて約5年間にわたる海外勤務経験をもつ。帰国後は、各種新規会計基準対応に従事。2019年4月より、当社財務経理共同本部長として参画。在職中に税理士、公認会計士(2020年登録)および中小企業診断士試験に合格。
将来の不確実性が高まる現在、費用削減の重要性も高まっている。守りを固める必要がある。利益率や変動費比率によるが、費用削減の利益に対するインパクトは大きい。ただし、解雇による人件費削減は労務紛争のリスクなどがありかなり大変で、モチベーション低下にも繋がりかねない。
よって、バックオフィス費用の削減、クラウド化、電子化、アウトソースなどが費用、人件費削減の有力な選択肢となる。当社(マネーフォワード)では現在「リストラ後の筋肉質」の組織を意識して経理本部を構成している。とはいえ2019年頃までは、自社サービスを活用しきれず、アナログな業務による負荷の高さから平均残業時間、有休取得日数、退職率など全てにおいて課題山積であった。
現状把握から開始し、例えば受取請求書処理では、現場入力/すべて電子で承認フロー/システム間の連携(APIなどでスムーズに)、を改善することにより業務を改善。「マネーフォワード クラウド債務支払い」の導入プロジェクトを発足し、約2カ月でペーパーレス化と工数削減に成功した。
また、グループ会社の会計システムをクラウドで一本化し、グループ全体の経営状況を迅速に把握できる体制へ変革した。申請内容の承認と差し戻しにはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)も活用している。諸々の施策の結果、残業時間は19年比で45.79%削減、有休休暇取得日数は12倍となった。社員の中の経理人員比率も低く抑えられている。
◎精緻な部門別管理
事業は、集中と選択が必要だ。採算が良く、成長率の高い部門に人員をシフトしたい。一つの法人に複数の部門がある場合、正しく会計システム上で業績評価をする必要がある。先述のとおり受取請求書処理を現場入力にしたことにより、費用上の部門区別がより精緻化し正確な部門別原価計算が可能となり、迅速な経営判断ができるようになった。
また、月次締め終了後に「Manageboard※」に連携し各種レポートを作成。レポート作成にかかる時間を大幅に削減している。
※Manageboard=会計データを取り込み、Excelを使わず予算実績管理・キャッシュフローシミュレーションが可能なクラウド予算管理ソフト
スピード感のある管理会計が、早い経営判断に繋がる。科目・部門・取引先別のデータ(=過去からの推移)をシステムで把握することが、費用削減活動の第一歩。正しい部門別の費用管理システムが費用削減活動の土台となる。
◎家賃/購買/コーポレートカード
人件費以外では、家賃の削減はインパクトが大きい。リモートワーク利用により削減の余地もある。当社は、2019年のコロナ前に経理プロセスを電子化していたことで、効率を落とすことなくリモート化できた。財務会計の電子帳簿保存法に対応している「マネーフォワード クラウド会計Plus」などを利用することで、効率化アップを目指した改善をしていたら、結果としてすべてリモートワークにつながった。
監査法人にもクラウド会計Plusのアカウントを発行。経理部は書類の印刷などが不要となり、監査法人はリモートで証憑などの確認が可能となり、監査対応を効率化した。ペーパーレス化で省スペースも実現。一人当たりの1カ月家賃コストは19年比で54%削減できている。
購買の前に事前稟議で費用を確認、相見積もりを取ることは費用削減のために重要だ。また、自動引き落とし、SaaS費用など、オーナーシップのない費用の管理も徹底したい。当社は、自動引き落としについても現場部署から「クラウド債務支払」にて事前稟議を行っている。SaaSについては定期的にIDの棚卸しをし、費用を利用部門に直接課金している。
今まで述べてきた施策には時間と労力がそれなりにかかる。より早く、気軽な費用削減策としてはコーポレートカード利用がある。リアルタイムで経費精算システムと連携され、ペーパーレスで管理できるタイプを活用することで、経理業務自体も効率化でき中長期的な人件費抑制にもつながる。当社の「Bizpay」は1~3%という高率のポイント還元が特徴。管理画面から一括管理でき、ポイントは次回の支払いに簡単に充当が可能だ。
コーポレートカード利用で当社では年間500万円近い費用削減ができる見込み。グループでの利用拡大で、更に削減額は増える可能性がある。決済金額の大きいIT部門との連携/全社アナウンス/カード配布先の拡大、などに努めている。Bizpayは、マネーフォワード クラウドにリアルタイムで入出金や利用明細が反映される。今月の経費が随時確認可能なので、月末の立替申請や翌月の追加修正が不要となる。間接的ではあるが、経理業務効率化、費用の見える化によってコーポレードカードにより費用は削減できる。
■特別講演(1)
新しい資本主義とROIC
~ SDGsをビジネスチャンスに ~
中央大学法科大学院教授
森・濱田松本法律事務所客員弁護士
野村 修也氏
1962年生まれ。北海道函館市出身。専門は商法・会社法・金融法。法制審議会や金融審議会等を通じて各種立法に関与。金融監督庁参事、金融庁顧問、総務省顧問、郵政民営化委員、東京都参与、司法試験考査委員、法制審議会委員などを歴任。年金記録問題の検証委員を務めたほか、福島第一原発事故の際には国会事故調査委員会の委員(主査)として報告書のとりまとめに尽力した。
◎CSR※から共通価値創造(CSV)へ
「共通価値の創造(CSV=Creating Shared Value)」は、ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授とマーク・E・クラマー氏が2006年の論文で提唱した。社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、同時に、経済的価値が創造されるというアプローチである。
※Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任
環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取った「ESG」という言葉が知られるようになったきっかけは、同じ06年のアナン国連事務総長の発言。機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則(PRI=Principles for Responsible Investment)」と、財務情報だけではなく非財務情報も考慮した「ESG投資」を行うことを提言した。ここから、お金の集まり方とお金の流れが変わり始めた。
持続可能な開発目標(SDGs=Sustainable Development Goals)とは、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さないことを誓っている。
これらを受け、現在の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の取り組み、ESG投資とSDGsの関係は下記チャートの通り。社会的な課題解決が事業機会と投資機会を生む、そして持続可能な社会をつくるという考えに拠る。
規律づけも、米国発祥の“株主利益最大化モデル”から、社会のさまざまなステークホルダーの利益をまんべんなく実現することを考慮する“ステークホルダー調整型”へ変化してきている。株主利益最大化モデルにはさまざまな判例・批評もあり、近年においても著名な学者によってステークホルダー論議は深められている。
◎企業価値との関係
投下資本利益率(ROIC)=税引き後営業利益÷投下資本、の向上を考えたい。投下資本(株主資本と有利子負債)がどれだけ利益を生んでいるか。ROEとは異なり、財務レバレッジによる操作ができないため、利益率の向上と資本回転率の向上が求められる。
経団連からは、サステナビリティに関する対話の際のギャップとして2022年に、「従来のESG投資のKPIでは、パーパスや長期戦略等との関連が示しにくい。パーパス起点のビジネスモデルの変革に資する対話が難しい可能性がある」という問題意識が示された。また、米国では株主利益最大化モデルとステークホルダーへの配慮の論議において、「短期的には企業価値の向上に繋がらなくても、長期的にはそれを増大させることが必要。そうした株主利益との繋がりが認められない形でステークホルダーの利益を追求することは違法と解される」という提唱も出てきている。
ただし、米国企業は短期的利益追求型を経て、顧客、従業員、仕入れ先、地域住民、株主すべてに目配りしたステークホルダー型、中長期的利益追求型、の次元に入りつつある。株主利益最大化モデルを否定しているわけではなく、その上に新しいステークホルダー型モデルを乗せようとしている高い次元にあることは強調しておきたい。
◎エンゲージメントの進化が必要
企業価値を向上させながらステークホルダー・モデルを実現する、つまり共通価値を実現させ共通価値を創造していく。そのためにはエンゲージメントの進化が必要だ。機関投資家と企業の従来型エンゲージメントは、株主としての議決権行使を背景とした対話(議決権行使基準)だ。KPIが例えば社外取締役の比率などになり、“ビジネスモデルの進化”よりはそれを支えるガバナンスを重視する。一方、進化したエンゲージメントは、インパクトの測定およびマネジメントとなる(IMM)。
経団連は、“インパクト指標”を活用した、パーパス起点の対話で実現を期待する姿を22年のレポートで提示している。それはビジネスモデルの明確化とイノベーションへの投資加速が実現する姿だ。また、社会課題の解決をビジネスモデルに組み込むための方法論としては、「セオリー・オブ・チェンジ」(一般社団法人セオリ-・オブ・チェンジ・ジャパン)、「ロジックモデル」(日本財団)などが既に提示されている。
最終的にどのような目標を自分たちは達成するのか? SDGsに対する中期経営計画を練るかのごとく、一つひとつKPIを立て、数値目標を決めていくことが肝要だ。社会的インパクトの増大を企業収益の向上に繋げるには、(1)コストカットに繋がる社会的インパクトを探す(消費エネルギーの削減など) (2)社会的インパクトを伴う新しいビジネスを生み出す(「つながる教室」による過疎地における教育格差の解消。NTT西日本の実証実験例、など)が有効だ。
一番大切なことは、SDGsへの取り組みを旧来のCSR、企業の社会的責任・社会貢献活動に止めるのではなく、「そこから新しいビジネスを生み出す」ことに必死に取り組んでいくことだ。そうした力強い新しい資本主義を実現していくことこそ、今、日本企業に求められている。それこそがROICの向上にもつながるのではないだろうか。
■課題解決講演(2)
ROICを軸とした持続可能な企業の成長を支援する
「ESG経営の実践」
Tagetik Japan株式会社
ディレクター
妹尾 顕太氏
大手外資系コンサルティングファーム、連結会計システムベンダー、大手外資系IT企業等での20年以上の経験を経て、Wolters Kluwerの経営管理プラットフォーム「CCH Tagetik」を活用したグローバル経営管理の提案、コンサルティングサービスを提供している。グループ経営管理領域における提案、導入、保守、また大規模プロジェクトのプロジェクトマネジメントなど一貫したプロジェクトの経験や、単体会計システムの導入、海外展開している日系子会社の現地での支援など、幅広い経験を持つ。
ESGを含む、顧客のコーポレート・パフォーマンス(経営管理)をサポートするCCH Tagetik。企業の経営意思決定の高度化を支える経営管理プラットフォームを提供しており、日本法人設立6年を経て日本でのビジネスパートナー数は50社以上、日本の売上Top10企業のうち半数に採用いただいている。
◎ROIC経営、ESG経営の取り巻く状況と目指す方向性
特に投資家との対話という観点で、近年、経営指標の開示、特に非財務情報(ESG)に関するガイダンスや法制度が整備されつつある。企業の持続的成長と、中長期的な企業価値の向上を見据えた経営が求められている。経済産業省、証券取引所、金融庁からもさまざまな提言、レポート、法令が出ている。企業は経営指標開示や非財務情報開示関連で、非常に多くのことが要求される状況に置かれている。
多くの企業がROICなどの経営指標開示、ESGなどの非財務情報開示の両輪で対応してはいる。しかし、現在企業が開示する非財務情報はまだCSRの視点が強すぎるという課題があり、いかに経営管理指標と非財務情報とを結びつけ、企業価値向上との関連性を示せるかが、今後のカギとなる。
経営管理指標の要素(例:ROIC)がESGの各項目とどのように関連があるかを示すことができれば、投資家にとって有用なESG開示が可能となる。言わば、攻めのROIC/ESG経営であり、すでにESGの財務影響を示した企業・団体の先進研究結果はいくつもある。
◎ROIC経営、ESG経営に求められるシステム基盤
CCH Tagetikは、一つのプラットフォームでデータの収集/格納・処理/出力までの経営管理(CPM)領域全体をカバーしている唯一の製品だ。
予算・連結・明細管理までカバーし、非財務を含めたグループ経営管理基盤として活用が可能であることが強み。経営者層と現場担当者レベルでは、それぞれ必要なデータの内容や粒度が異なるため、それらのデータを一元的に管理できるシステム基盤が必要だ。
また、PDCAサイクルが実現できるシステムであるかどうかも重要。ROICツリーを展開した財務KPIを元に、計画策定(P)、実績管理(D)、比較分析(C)、施策管理(A)の管理プロセスをスムーズに回すためのシステム基盤かどうかを確認したい。
ESG経営の課題は、ステークホルダーへの効果的な開示/テクノロジーを活用した効率化、高度化/ESG戦略と企業活動の分断、である。CCH Tagetikは、ESG報告業務の支援やESGと企業戦略の統合を支援することで、課題解決に寄与する。データ収集と正規化⇒計算処理とモニタリング⇒開示&報告という流れで、各種フレームワークに準拠したESGの報告・開示や、ESG目標の企業活動・予算への落とし込み、中長期でのESG費用対効果のモニタリング、分析を支援する。
CCH Tagetikを活用いただき、(1)開示および分析⇒(2)ESG指標と財務事業計画との連動⇒(3)戦略的事業・製品ポートフォリオ再構築、という段階的・戦略的アプローチで攻めのROIC/ESG経営を行っていただきたい。
■課題解決講演(3)
ROIC経営のカギとなる計画業務の価値と自働化の必要性
~ 成功企業が適用する12の原則 ~
Board Japan株式会社
カントリーマネージャー
篠原 史信氏
SAP, Oracle, Workdayなどを経て現職。経営管理プロセスの自動化と、意思決定のデジタル化を通して、企業価値の向上へのIT活用を提案している。
ROIC経営においては、ファイナンス部門が、事業ポートフォリオの目標とモニタリング、ROICツリー展開による各事業部門への理解の周知を行う。ROICは結果指標として事業部門のKPIによって記録されるので、目標値のマネジメントのためには、迅速かつ正確なデータ収集が重要となる。できればデータ収集は自動化をすべきであるが、組織間でのデータや報告サイクルの問題は多くの企業で存在している。
この課題を最小化し、ROIC運用を成功させるためには、FP&A※業務が重要度を増す。日本企業においてはFP&Aは明示される事が、まだ少ないが、この業務が、本社から見たガバナンスと(事業部門)の現場主義の交点で重要な役割を果たし、部分最適を回避し組織の全体最適を意識しつつ、計画予実の対比・改善サイクルを回す事が実現できるのである。成熟したFP&Aは、ファイナンス/テクノロジー/コミュニケーションの各分野で何を行うか、ぜひ資料でも確認してほしい。
※Financial Planning & Analysis。業務管理および財務計画の立案業務、およびそれを担当する職種
◎計画業務の必要性と12の原則
成功企業が適用する価値原則を、資料で紹介する。5つの基本原則(強固な経営基盤となる管理プロセス)/アカウンタビリティの原則(マネジメントコントロール:3つの原則で当事者意識を強化)/ドライバーと主要業績指標(KPIs、4つの原則で高次元のFP&Aへ進化する)。
例えば「コカ・コーラ・ヨーロピアン・パートナーズ」では、統合経営計画の一環として「Board」を導入。財務データ入力の90%を自動化し、計画確定までの時間を24時間から15分単位とし、生産から配送までデジタルによるドライバーベースの計画を実現した。ポイントは、ビジネスプロセス(配送と供給)を財務と連鎖し、それをKBI※として組織目標としたこと。また、その状況を見える化し、遅れの報告をテクノロジーで可能にしたことで、変更がいつでも決定できるような体制を築いた点にある。
※Key Business Indicator
同社では、財務部門と業務部門の連携強化/サプライチェーン・トランスフォーメーションの実現/サプライチェーンファイナンスの業務の90%が自動化/データ転送の効率化によるリアルタイムの状況追跡を実現、が達成された。ドライバーベース計画と財務インパクトの関連性を確実に把握できるようになったのである。また、異なる文化を持つ吸収合併子会社もBoardを使うことにより迅速に統合が実現した。
ROIC経営が求めるプラットフォーム要件、ROIC展開の7つ道具は、(1)事業ポートフォリオ図 (2)正/逆ROICツリー (3)中期経営計画タスク管理 (4)予実ダッシュボード (5)財務モデリング (6)ワークフロー (7)プロシージャ(自動計算処理)、である。これらの環境はBoardで全て実現する事ができる。
スイス発祥のインテリジェント プランニング プラットフォーム「Board」。世界中の大手企業にスマートなプランニング、実用的な洞察、より良い結果を提供している。私たち日本法人では、経営企画・財務・経理のための資料「FP&Aライブラリ」や事例紹介資料も多数用意している。ライブラリから知見を多く集めて頂き、計画業務から事業ポートフォリオまでの実務面の動的な業務フローをBoardで実現していただきたい。
■特別講演(2)
財務戦略―より良い経営と企業価値向上の実現に向けたROICの活用
~ 社外取締役としての企業価値向上への視座 ~
東京都立大学大学院 経営学研究科 教授
東京都立大学 経済経営学部 教授
松田 千恵子氏
(株)日本長期信用銀行にて国際審査、海外営業等を担当後、ムーディーズジャパン(株)格付けアナリストを経て、(株)コーポレイトディレクション、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(株)でパートナーを務める。企業経営と資本市場にかかわる実務、研究及び教育に注力している。一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授。その他、事業会社の社外取締役、政府・公的機関の委員等を務める。東京外国語大学 外国語学部卒、仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院 経営学修士、筑波大学大学院 企業科学専攻博士課程修了。博士(経営学)。
昨今、資本市場との関係を考えずに経営を行うことは難しくなってきた。企業(資金運用者)は市場(資金提供者)から資金調達をする必要があり、市場は企業に情報開示を求める。企業は、戦略構築/基盤整備/企業実績などの情報開示をしなければならない。
東証プライム市場に属するグローバルな企業において、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ、ROE(株主資本利益率)8%未満が多数ある憂慮すべき状況は、すべて「経営の結果」である。根本原因である将来シナリオや企業の組織基盤を見直すいい機会と捉えるべきだ。
財務KPIのうち、企業家は収益性を、投資家は資本効率性や成長性を重視している。金融庁からは、資本コストの的確な把握/資本効率等に関する目標提示/事業ポートフォリオの見直し/経営資源の配分に関する具体的で明確な説明、を促す要請文書(コーポレート・ガバナンスコード)が出ている。
◎投資家が資本効率に拘る理由
投資家が資本効率を重視する理由を(1)~(3)で挙げていく。
まず、(1) 企業の成功指標が変化し、経済的価値の向上と社会的価値の実現が企業の至上命題となってきた。企業価値の向上手段は三つしかない。事業戦略=営業キャッシュフローをどのように増大させるか、投資戦略=投資キャッシュフローをどのように的確に扱うか、財務戦略=財務キャッシュフローをどのように柔軟に調達できるか、である。
(2) 企業家と投資家では、そもそも業績を見る上でのスタートポイントが異なる。企業家は事業・売上・利益・損益計算書に、投資家は投資・利益が繰り入れられる株主資本・有利子負債・貸借対照表を強く意識する。だが、投資家が本当に知りたいのは企業のキャッシュフローとその再投資サイクルである。
経営者はキャッシュフローを豊かにするために売上/費用/運転資金/投資資金/負債と資本、の五つをコントロールし、しっかりと将来予測を行い、内外からのチェックを受けることが肝要だ。
そもそも、数値指標を考えるのは、経理部門の仕事ではない。日本の企業は会計(アカウンティング)視点を重視するが、投資家が重視しているのはファイナンス視点である。将来の業況に対する“確からしい予測”とそのための判断基準を示すべきだ。また、アカウンティングにおいても、日本企業では制度会計への依存が非常に強い。本来は経営戦略があり、そのモニタリングのために管理会計が用いられ、結果を制度会計で示すはずだ。
(3) メインバンクガバナンスからエクイティガバナンスへの移行が、経営に影響を与えている。かつては債権者である銀行が財務の面倒を全て見てくれていた。その銀行が考える“企業の良い形”と、株主の方々が考えるそれは180度違うことがある。経営課題に対する債権者と株主の反応は大きく異なる。例えば、経営戦略をどう立てどのように語るか、においては、全社は過去の実績や中期経営計画を、後者は将来の予測やエクイティストーリーを重視する。
(4) 株主が資本市場で行う投資ポートフォリオと、多角化企業のポートフォリオはバッティングする。多角化については、債権者は肯定的で株主は否定的だ。株主を納得させるために、企業は株主・投資家的見地から「見極める力=事業ポートフォリオ・マネジメント」「連ねる力=事業シナジー・マネジメント」「束ねる力=企業アイデンティティ・マネジメント」の三つを涵養し、全社戦略に繋げていかなければならない。
ところが、日本企業は企業価値重視経営を行おうとしてもデータインフラが整備されていない。最も手早く導入することができるのが、資本コストを上回る収益性をどのように見極めるのか=ROICなのである。「ROICマイナスWACCがプラスになっているか?」をコントロールできるデータインフラをつくってほしい。
ただし精緻なデータインフラ、経理項目を作る必要はない。先述した売上/費用/運転資金/投資資金/負債と資本の5項目だけで、約3カ月ほどで作り、回しながら時価総額と企業価値の分析、資本コストの確認などを進めてほしい。本社の機能不全解消のためには、カネ/ヒト/情報/のプラットフォーム変革が必要。今述べた5項目のバランスシート構築と同時に、投資モニタリングの実施を。
事業ポートフォリオ・マネジメントにおいて、ROICは万能ではない。しかしまた、ROICで見なければ投資に対するリスク・リターンが分からない。成長性の指標と合わせてROICを見たい。ROICをグループ内で展開するにあたっては、現場に刺さるようにドライバーを分解して伝える必要がある。また、共通軸による評価・結果評価を、事業ごとの特性に基づく評価・プロセス評価と混在させないことも重要だ。
データインフラが整ったら、マネジメントサイクルにおいて活用しなければ意味がない。始点は「経営戦略」である。将来に向けたシナリオをバックキャスティングで作成するのはよいが、それを定量化して検証サイクル=ファイナンシャルプロジェクションを創り上げることだ。プロジェクションに基づいてモニタリングをかけることで、事業戦略(投資判断・全社戦略)の更なるブラッシュアップにつながる。
サステナビリティへの取り組みにおいても、経営戦略起点でリスク⇔指標・目標⇔ガバナンス⇔経営戦略、という一連の流れを考え、開示していくことの重要性が増している。その取り組みも、結局のところ「中長期的な将来キャッシュフロー生成能力」に影響を与えるかどうかが投資家に重視される。起点である経営戦略について、取締役会で議論する時間を増やすことも喫緊の課題。経営陣はある意味企業の脳梁である。企業の経済的な価値(左脳的な企業価値)と、企業の社会的な価値(右脳的な企業価値)が統合された自社の将来像を描き、投資家が納得する説明を行ってほしい。
2023年5月24日(水) オンラインLIVE配信
source : 文藝春秋 メディア事業局