ここ滋賀県大津市にある石山寺は、747年に聖武天皇の勅願によって開基された真言宗の大本山。特に安産・福徳・縁結びにご利益のある霊場として、長く信仰を集めてきた歴史あるお寺です。
今年の4月、第53世座主就任の披露の場として、晋山式を執り行うことができました。一昨年の暮れに先代の座主だった父が亡くなったため、就任自体はそのタイミングでしたが、喪に服す期間など1年以上を経て、ようやくの挙行となりました。周りの方々にも安心していただけたのではないかと、私もホッとしています。
奈良時代の創建以来、私が初めての女性座主に就くということで、報道でも多く取り上げていただき、ありがたく思っています。一方で、性別のことはあまり意識せずに生きてきましたので、それほど珍しいことだったのかと、驚きもありました。
お坊さんになるのは、私の小さい頃からの憧れでした。小学校の卒業文集にも、そう綴っています。きっと、当時の座主だった祖父や父がお勤めをする姿が、とても格好良く見えたからでしょう。祖父は、京都にある真言宗の総本山・東寺の長者も兼務していました。長者とは、お寺を管理する最高位の僧侶のこと。茶色い衣を着て、鼈甲の眼鏡をかけた祖父の威厳ある姿が印象に残っています。
先代の父は陽気な人柄で、家庭では普段から仏教に関する話をしてくれていました。今でもよく覚えているのは、家族でレストランに食事に行ったときのことです。洋食のお店で、バターの入った球状の銀食器が出てきた。それを見た父はいきなり、
「この中に仏さんが入って周りを見たら、そこに仏さん自身の姿が映っとる。それが曼荼羅や」
と。真言密教では、曼荼羅は仏教の真理や宇宙観を視覚的に表現したもの、と言われたりしますが、父はそれを食器にたとえて解説してくれたのです。
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source : 文藝春秋 2023年8月号