秘密を守る自由が「信頼」を育む
人は「思想の自由」を守ることが、ほんとうにできるだろうか。
一見すると「内心で思う分には、なんでも自由」というのはわかりやすい。しかし、その思想がなんらかの行動を煽るものだったらどうか。煽られた結果、現に自分たちに危機が訪れていても、その思想を信じる人の自由にイエスと言える強さが、リベラルにあるだろうか。
戦後初期の米国で赤狩りの嵐が吹き始めたとき、共産党も共産主義も非合法ではなかった。しかし実在した原爆スパイによってソ連は1949年に核実験に成功し、翌年には朝鮮戦争が勃発する。
山本おさむ氏の『赤狩り』は劇画でそうした背景を突きつけ、読者に揺さぶりをかける。あなたは「狩る」側に回らない自信がありますか? と。だから迫害に耐え抜いた「英雄」のみでなく、旧友を売り妥協に屈した「悪玉」の内面までもが、ひとりずつ丁寧に辿られる。
なにより「思想」の持ち主は、しばしば性格も面倒くさい。リベラルな映画人(監督のW・ワイラーに代表される)が掲げた、「信じるだけなら自由のはず」として広く共感を喚起する戦術は、当の共産主義者の素行のために挫折する。議会を正面から挑発し闘争を煽る「アカ」の脚本家を庇(かば)うことに疲れ、櫛(くし)の歯が欠けるように支援者も去ってゆく。
ワイラー監督の『ローマの休日』は、かくして本名では執筆不能となったD・トランボが、友人の名で脚本を書いた。『赤狩り』では、一度は決裂したこの2人が再び、互いへの敬意を回復しながら製作を進めたとする解釈をとる。
個人が「秘密を守る」権利を持つことは、単なる政治制度上の方便ではない。軽々しく公にしえない関係を抱えたとき、人は「信頼」しあうことの尊さに初めて気づく。ワイラーのリベラリズムが、トランボとの共同作業を通じて蘇生し、したたかに練磨される描写は温かい。
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