「日本映画黄金期に咲く大輪の花」と称された女優・京マチ子(1924〜2019)。国際的にも高く評価されたその美貌と演技を、大映京都撮影所のホープとして見つめた大楠道代氏が語った。
私が短大を辞め、京マチ子さんが看板女優として在籍していた大映京都へ入った昭和41(1966)年は、まだスタジオシステムが映画界で活きていた時代でした。綺羅星のように山本富士子さん、若尾文子さんや勝新太郎さん、市川雷蔵さんといったスターがいるだけではなく、お城やお屋敷のセットでも廊下の奥、扉の裏までちゃんと造り込んであり、衣装も使い回しではなく作品に応じたものを着せてもらえていました。裏に回るとベニヤ板というような、今の映画のセットとは大違いだったんです。
当時、大映は東京と京都に撮影所が分かれていまして、私は関西育ちという縁もあるので京都へ入りました。撮影所に入る前も後も、豪華なスタジオと知りつつも、そんなに意識することもなく、土地に馴染んだ娯楽産業の一角という認識でした。
ただ、大映に入る前に少しだけ籍をおいていた日活とは雰囲気は大きく違いました。日活は吉永小百合さんやスタッフが私と世代が近くて若々しかった。言ってみれば大学のキャンパスみたいな雰囲気。
対する大映京都撮影所は大人の世界ですね。社長である永田雅一さんは興行一筋のやり手。増村保造さんに代表される第一線の監督はインテリで厳しい人が多かったですし、スタッフの面々は照明部から小道具部、末端に至るまで筋金入りのプロフェッショナル。そんな場所に小生意気な私が紛れ込んじゃったわけです。
そこに学生時代から憧れていた京マチ子さんがいらした。若尾さんは“素敵な先輩”という目線で敬愛してましたけれど、京さんはなんと申しますか、別世界に咲く大輪の花という印象です。
それはそうですよね、大阪松竹少女歌劇団からデビューして、黒澤明監督『羅生門』(1950年)、溝口健二監督『雨月物語』(53年)や『赤線地帯』(56年)といった、私が夢中になった映画に出てらしたんですから。
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