女優・杉村春子(1906〜1997)は昭和12(1937)年、文学座の創立に参加。以降、生涯に亘って日本演劇界を牽引した。楽屋当番(部屋子)時代から杉村にかわいがられ続けた女優・二宮さよ子氏が、思い出の師を語る。
高校を卒業後、19歳で試験に合格して文学座の養成所に入所した私は、研究生に選ばれると毎日のように稽古を見学するようになりました。
子どもの頃からお芝居が好きで、毎日見ているうちに自然とセリフや動きが頭に入っていたのですね。ある日、劇団のスターだった小川真由美さんが、海外ロケで長期間稽古を休むことになり、小川さんの代役をやってくれないかと打診をいただいた時、台本も持たずにセリフを全部言えたんです。杉村先生に「あんた、どこで覚えたの」と驚かれ、先生の楽屋当番に推薦していただきました。
当時、杉村先生率いる文学座は、日本全国で公演を行っていました。先生の楽屋当番は休みなどないほど忙しく、体力的にも大変でした。
先生が舞台に上がる時に、袖でプロンプターを務めるのも私の役目だったのですが、疲れて居眠りしてしまったことがありました。「この子寝てるわよ」って先生からみんなに言われて恥ずかしかった。
一七代目中村勘三郎さんからいただいた差し入れのお菓子を、私が全部ひとりで食べてしまったこともあります。食事の時間も取れずお腹が空いていたので、1日1個だったらいいだろうと思って食べたら、あまりに美味しくて。先生が「勘三郎さんの差し入れいただくわ」とおっしゃったときにはもう残っていませんでした。正直に打ち明けたら、また楽屋中に「あのね、この子が全部食べちゃったのよ」と言われました。
そんな私でしたが、先生からは随分目をかけていただきました。
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