安倍官邸の潜在脅威 「進次郎」と「太郎」

赤坂太郎

ニュース 政治
東京・赤坂は政界の奥座敷と呼ばれる。昼は永田町にいる政治家たちは、夜になると料亭が立ち並ぶ赤坂へと流れてくる。そこで垣間見えるのは、政治家たちの裏の顔だ。敏腕政治記者が表には出てこない政界裏情報を匿名で執筆する文藝春秋の名物コーナー。

台頭する与野党の若手ホープ。若年層支持率拡大を狙う安倍の秘策は?

「まさに令和元年にふさわしいカップルだね」

 8月7日午後6時半すぎ。オフィスビルの谷間に、小さな屋号を彫った表札が掲げられた東京・銀座の日本料理店「新ばし松山」。ビル街に埋もれながらも荘厳とした存在感を放つ高級料亭の一室で、首相の安倍晋三は上機嫌だった。経済産業相の世耕弘成や自民党幹事長代行の萩生田光一らを交えた宴席は、わずか5時間ほど前に世間をあっと驚かせた小泉進次郎と滝川クリステルの結婚話で持ちきりだった。

 ある出席者が「ビックリでしたね。総理は知っていたんじゃないですか?」と水を向けると、安倍は「私も勘が悪いからね」と笑いを誘った。「進次郎は内閣改造で官房副長官か大臣は間違いないですね」と安倍に向けて言葉を発した者もいたが、安倍は笑って答えず、近くに座っていた現在の官房副長官の西村康稔は、複雑な表情でうつむいていた。

 進次郎が真っ先に官房長官の菅義偉に結婚報告をした後、そのまま官邸内でメディアに結婚を公表したことへの憶測は広がる。本誌9月号で菅と進次郎が対談したことが進次郎と安倍政権との距離を縮めたとの一部報道もあったが、何よりも進次郎自身が徐々に心変わりしていったのではとの見方もある。昨年の自民党総裁選では石破茂を推した進次郎だが、最近では周囲に「対立をあおり、分断を招くようなやり方はしたくない」と、党内融和の必要性を訴えている。安倍政権の中で、その橋渡し役を担いたいとの意欲とも受け取れる。

 菅と進次郎はともに神奈川県選出だが、そこは麻生派系と無派閥を中心とした菅派がしのぎを削る地域でもある。麻生派は河野太郎、甘利明という2人の有力議員を抱える一方、菅派は派閥横断的な「ガネーシャの会」を束ねる坂井学や星野剛士、島村大、盟友の小此木八郎などがわきを固める。横須賀を地盤とする進次郎が「官房長官の預かり」となれば、神奈川県内の勢力図にも影響を与える。

 進次郎の第1子が誕生するのを受け、永田町では「命名は菅官房長官がするのではないか」「進次郎氏は父親として育児休業を取得するのでは」といった見方も出ている。国会議員の育児休業制度は事実上、存在しない。国会改革を強く提唱している進次郎が、身をもって子育てに向けた永田町の古い慣習を打ち破る可能性もある。

 じつは官邸サイドは昨年来、進次郎の動向をつぶさに分析していた。参院選の直前まで、安倍は衆参同日選の可能性を探っていたが、それに「待った」をかけたのが菅だった。衆参同日選の先送りの理由は色々と取り沙汰されているが、衆院選に踏み切った場合、選挙後の首班指名で進次郎と石破が連携する可能性を官邸サイドは強く警戒していたのだ。昨年の自民党総裁選で石破を支持した進次郎を安倍政権側に引き込むにはどうすればいいか――。官邸サイドは、ギリギリまで進次郎と石破の間合いを見極めていたが、結局、進次郎を完全に抱き込むまでには至らなかったという。

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source : 文藝春秋 2019年10月号

genre : ニュース 政治