未来の人類のためにも倫理資本主義を始めよう

「哲学界のロックスター」と呼ばれる名門大学教授が語る

マルクス・ガブリエル 哲学者・ボン大学教授

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 21世紀は「倫理資本主義」の時代です。世界で最初に持続可能で、かつ倫理的な資本主義体制をつくった国が、今世紀で最も豊かなスーパーパワーになるだろう――。数年前から私はそう主張しています。簡単にいえば、倫理資本主義とは、消費者も生産者も経営者も労働者も誰もがいいことをして利益を得るという考え方です。

 今、人類が直面している真の危機、最大の危機は2つあります。環境危機と経済危機です。

 ただ、拙著(『暗黒の時代における倫理的進歩』未邦訳)にも書いたのですが、「危機は倫理的進歩をもたらす」と考えています。人類には自分たちの置かれた状況を改善する多大な可能性があります。危機に直面して、人類は倫理的に行動してきたと思っています。

マルクス・ガブリエル氏(大野和基撮影)

 倫理資本主義について詳しく語る前に、まず「倫理」とは何かを説明しましょう。

 倫理は、「道徳的事実(moral facts)」の性質と範囲を研究する学問である哲学の一分野です。事実にはさまざまな種類がありますが、たとえば2+2は4であって、4以外の数になることはあり得ないというのが、数学的事実です。数学的事実を尊重しなければ、道や橋は建設できません。同様に、あなたが道徳的事実を尊重しないのなら間違いを犯しています。また、道徳的事実はいかなる社会においても、社会を安定させるために重要なのです。

 道徳的事実は「道徳的現実(moral reality)」と言ったら、わかりやすいかもしれません。例をあげましょう。

 今、目の前で、子どもがそれほど深くない川でおぼれているとします。しかし、あなたは冷えたビールを手に持っていて、暑いので飲みたいと思っていました。冷えたビールを飲むか、おぼれている子どもを助けるか、どちらかを選択しなければなりません。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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