日銀はいつ利上げするのか? 植田総裁の発言から読み解く

金融市場にとって最大の注目点

木原 麗花 ロイター通信社記者
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 日本銀行は2024年3月にマイナス金利を解除し、10年以上に及んだ大規模緩和からの出口に向け、歴史的な一歩を踏み出した。同年7月には2%のインフレ目標を持続的に達成できる確度が高まったとして、短期金利を0.25%に引き上げた。植田和男総裁は今後も利上げを続ける姿勢を示しており、金融市場にとって、日銀による再利上げが2025年の最大の注目点の一つだ。

 そこで焦点となるのが植田総裁の発言だが、市場とのコミュニケーションは必ずしもうまくいっていない。日銀は2024年4月から利上げのシグナルを送っていたというが、植田総裁の丁寧だが曖昧な発信はむしろ市場に「日銀は利上げに慎重である」と受け止められ、7月31日の利上げはサプライズと捉えられてしまった。同日の記者会見で、今後も複数回利上げする可能性を示唆すると急速な円高が進行し、株価は暴落した。

 では、今後の利上げのタイミングを予想する際、植田総裁の発言のどこに注目し、どう読み解けばよいのだろうか。ここで役に立つのがレトリック分析だ。レトリック(修辞学)とはいわば説得の技法で、有効に用いれば主張の説得力を高め、自らが紡ぐナラティブを人々に受け入れてもらうことができる。

鍵は「モダリティ」と「メタファー」

 レトリック・ツールのひとつに、将来の出来事についてどれだけ確信をもって語っているかを示すモダリティという概念がある。「必ず利上げする」と高いモダリティを用いれば、利上げの「本気度」を強くアピールできる。一方、「利上げするかもしれない」と低いモダリティを使うと、本気度は落ちる半面、情勢が変わって利上げできなくなった場合のヘッジができ、政策の柔軟性を確保できる。つまり植田総裁のモダリティを分析すれば、日銀がどれだけ利上げについて強いシグナルを送りたがっているかがわかるのだ。

日本銀行の外観 ©makoto.h/イメージマート

 金融市場へのインパクトを大きくしたい緩和拡大時とは異なり、緩和縮小局面におけるコミュニケーションはデリケートだ。利上げの可能性を強く示唆しすぎると、長期金利が急騰し、市場の混乱を招く恐れがある。実際の利上げのタイミングやペースについては、ぎりぎりまで情勢を見極めて慎重に判断したいと考えるのが自然だろう。このため、利上げ局面では先行きの金融政策についてあまり強い約束はせず、低いモダリティを用いるのが中央銀行の世界では一般的だ。

 実際、2023年4月就任以降の植田総裁の発信を分析すると、モダリティは総じて低めだ。逆に言えば、植田総裁が高いモダリティで利上げの可能性を示唆した場合、政策変更のタイミングは近いということだろう。たとえば2024年5月の講演で植田総裁は、見通しに沿って基調的な物価上昇率が高まっていけば「緩和度合を調整していくことになる」と高いモダリティで述べている。さらに経済・物価をめぐるリスクが変化すれば「当然、金利を動かす理由となります」と断言し、円安が輸入コストを押し上げ、物価上ぶれリスクが高まれば利上げする旨、強く示唆している。この2か月後、日銀は利上げを決断した。

 また、植田総裁は利上げのタイミングを決める際、経済・物価情勢が日銀の想定通り推移する蓋然性を判断材料にすると述べている。つまり景気や物価についての判断が強気化したり、賃上げやサービス価格の上昇が持続する可能性についてより高いモダリティで断定的に語り始めれば、利上げが近い合図だろう。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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