第二次トランプ政権が誕生し、「米国第一主義」(一昔前の言葉ではアメリカ帝国主義)と日本も真剣に向き合わざるをえない状況になった。もちろん米国は日本にとって唯一の同盟国なので「アメリカ帝国主義」などという失礼な言葉を使うべきではない。しかし、これまでのように「無理難題を言ってきても、同盟国なので最終的には何とかなる」というような甘い態度で対米外交を展開すると日本は手ひどい打撃を受ける。
評者は、日本が米国との対峙を真剣に考えていた頃の文献を繙くことで得られるものがあると考える。その一つが、大日本帝国陸軍の一般将校向けマニュアルとして作成された『作戦要務令』(1938年)だ。
太平洋戦争後、これを用いて、ユニークな経営論を展開した元陸軍参謀がいる。戦争末期に相模湾防衛を担当する第53軍参謀をつとめ、戦後は東洋精密工業代表取締役をつとめる傍ら、旧陸軍出身者の親睦団体偕行社理事長をつとめた大橋武夫氏(1906年〜1987年)だ。大橋氏は、共産党系労働組合による争議で倒産した会社に陸軍式の経営戦略を導入し、再建に成功した。このノウハウを兵法経営として体系化し、コンサルとしても活躍した人物だ。大橋氏はインテリジェンス・オフィサー(情報将校)としても傑出していた。同氏の『復刻新装版 謀略』(時事通信社、2024年)は、21世紀の今日においても実践に活用できる優れた作品である。

大橋氏は、『作戦要務令──その企業的研究』(建帛社、1976年)として復刊するにあたって、その活用法についてこう述べる。
〈作戦要務令は兵書であるが、組織の効果的運用を説いているところからみれば、現代企業のための優良な経営書である。特に状況判断・決心・命令・監督を一サイクルとする指揮の手順などは利用価値が大きく、また物事を説明するに当たり、目的・主眼・要訣などを冒頭に掲げ、単純・明快・的確にその趣旨を主張して本質を把握させる手法、多忙混乱した事態や人間の極限状態においても確実迅速に意思伝達をはかる文書の記述・取扱い方法など、現在のわれわれにとって範とするに足るものが多いと信じ、経営的解説を加えて刊行することを思い立った次第である〉
評者も大橋氏と同じ意見だ。『作戦要務令』は冒頭で軍隊の本来の任務を強調する。
〈軍の主とする所は戦闘なり。故に百事皆戦闘を以て基準とすべし。而して戦闘一般の目的は敵を圧倒殲滅して迅速に戦捷を獲得するに在り〉
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