「若者のことが分からない昭和世代に読んでもらいたい」
佐藤 麻布競馬場とは何者か。2021年にTwitter(現・X)に投稿した連作短篇小説『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』が、「タワマン文学」として現代日本文学に新しい頁を刻みました。ただ、覆面で活動されているから、著者の「麻布競馬場」なる人物が果たして実在するのか、実は今日まで半信半疑でした(笑)。
麻布競馬場(以下、麻布) 日中は会社員として働いているので顔出しできないんです。夜は「タワマン文学者」として“実地調査”に励んでいます(笑)。
佐藤 麻布さんが描いているのは、まさに月刊情報誌『東京カレンダー』の世界ですね。客観的には、東京の中流階級上層、いわゆる「勝ち組」ですが、意識はプロレタリアートという現実を見事な観察眼で描き出している。
麻布さんの作品には奥行きがあって、最新作『令和元年の人生ゲーム』は「世代論」としても傑作です。僕はいま、企業の管理職や経営層、官庁の幹部にこの本を勧めて回っているんです。「最近の若者のことが分からない」と嘆いている昭和世代にこそ本作をぜひ読んでもらいたい。
『令和元年の人生ゲーム』は、Z世代(1990年代末から2010年代初期に生まれた人々の通称)の生態に迫った小説だ。主人公は“意識の高い”若者たちのなかにいて、ひとり「何もしない」22歳の青年・沼田。〈クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって、そうですね、皇居ランでもしたいと思ってます〉。そう語る彼は、“何もしない”姿勢で、独特な存在感を放っている。
「余計者」の系譜
佐藤 沼田は興味深い人物ですね。僕は、19世紀のロシアの作家、イワン・ゴンチャロフの『オブローモフ』を思い出しました。
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source : 文藝春秋 2024年5月号