
人材確保が困難を極める中、従業員の幸福や成長、パフォーマンス向上を通じて、企業の持続的な成功を支援する「エンプロイーサクセス」への取り組みが加速しています。従業員の満足度と企業の生産性の間に強い相関があると言われ、従業員の成長機会の妨げや、エンゲージメントの低下、人材育成プランの不足、経営ビジョンや組織文化への共感不足に対し、フィードバックや評価制度といった人事制度改革、キャリア支援、コミュニケーション改善を通じ、対策を図っています。
<エンプロイーサクセスの成果>
生産性の向上/離職率の低下/採用コストやナレッジ流出が防止/
イノベーションの促進/競争力・企業価値の向上
<実践の方向性>
目標設定と評価の透明性/明確な目標設定、定期的なフィードバック/
従業員支援プログラムの強化/職場環境の改善/キャリア開発支援/
オープンなコミュニケーションの推進/双方向の対話を促進する文化の醸成/
定期的なサーベイの実施/デジタルテクノロジーの活用
エンプロイーサクセスは、単なる人材管理を超えて、企業と従業員が共に成長するための戦略的取り組みとして、全社一体となり、組織全体で継続的なコミットメントが求められています。
本カンファレンスでは、有識者、実践者の講演を通じ、「エンプロイーサクセス」の現在地と展望について考察した。
■基調講演
新時代のエンプロイーサクセス
~軍事的世界観を脱却し、冒険する組織をつくる「5つの基本原則」~

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
『冒険する組織のつくり方』著者
安斎 勇樹氏
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』『問いのデザイン』『問いかけの作法』などがある。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。
「ビジネスとは“戦争である”」。20世紀のビジネス・経営論の課題は、この概念に影響され過ぎていた。戦略・戦術・兵站・軍の統率・兵隊育成・領地の独占……1940年代から、経営論は急速に軍事的な世界観に染まっていった。
しかし、人間と社会の価値観は大きく変化しつつある。キャリア観は会社中心から自分の人生中心へ。さらなる自己実現を探究するためのひとつの構成要素として会社がある。リモートワーク期間に自分のキャリアを見直し、待遇よりも自己実現を優先する人が増加。会社の目的と自分の人生を重ねられず、燃え尽き症候群に陥る人も増加した。
事業観は、領地の奪い合いからよりよい社会の開拓へ。不確実な世界で、仲間と共創しながら、よりよい社会の可能性を探究する方向になっている。いったい何のために働くのか?個人も組織も仕事の意味が問い直されている時代だ。軍事的世界観から冒険的世界観へ。組織だからこそできる社会的ミッションの探究と、個性ある一人ひとりの自己実現の探究のはざまに「事業・組織の源泉としてのエンプロイーサクセス」がある。
◎冒険的世界観へのシフトを妨げる軍事的組織の2つの現代病
2つの現代病、それは認識の固定化と、関係性の固定化という病だ。前者は過度なトップダウン・業務の作業化によって古く染みついた近視眼的なものの見方にとらわれ、主体性と創造性が失われている状態。後者は、機能的かつ合理的な役割分担の慣習化によって互いの個性を理解するコミュニケーションが欠落し、精神的なつながりが希薄になっている状態だ。
軍事的世界観は、兵士の「視野」を狭くする。ものの見方が凝り固まる“認識の固定化”の病だ(自動車メーカーのカーナビ事業の事例紹介あり)。古い「とらわれ」に支配された軍事的な指令ではなく、固定化された認識から抜け出し正しく問いを立て直すこと、真の「こだわり」を育む冒険(Quest)のための問い(Question)こそが必要なのだ。また、マネージャーとメンバーが、お互いを「こういう人だ」と決めつける。これは他者に対する認識の固定化で、関係性の固定化につながる例だ。
職場組織には技術的問題と適応課題がある。前者は解決策が明確で、既存の知識や技術で解決可能な問題、やり方を知っていれば解ける問題。後者は、問題の当事者が認識や関係性を変えなければ解決しない問題、自分たちが変わらなければ解けない問題だ。マネージャーとメンバー間に生ずる齟齬はノウハウ不足による技術的問題ではなく、両者の認識と関係性による適応課題なのである。これは「対話」をしなければ永久に解決しない。
人間の根底にある「思考」と「価値基準」は、マネージャーとメンバー双方とも互いに目に見えない。価値基準の違いによる上司と部下のコミュニケーションのすれ違いは、水面下でかなり大きくなる。認識の固定化と、関係性の固定化の問題課題をどう解いていくかを書いた著書が『冒険する組織のつくりかた』(発行:テオリア、発売:ディスカヴァー・トゥエンティワン)だ。
◎組織というものを捉えるレンズをアップデートする
著書にも書いているが、アプリやテクニックの前にまずは“OS”をアップデートしよう。下記スライドのようにレンズを変えるのである。

これまでの目標設定の基本原則は、以下の「SMART」であった。Specific:具体的である/Measurable:測定可能である/Achievable:達成可能である/Relevant:上位目標と関連する/Time-bound:時間制限がある。トップダウン型マネジメント、戦略推進優先に有効だ。
著書では、SMARTを「ALIVE」と両立しよう、と提示している。それはAdaptive:変化に適応できる/Learningful:学びの機会になる/Interesting:好奇心そそる/Visionary:未来を見据える/Experimental:実験的である、で、ボトムアップ型マネジメント、人材・組織開発に有効である。
「目標」のレンズについて。SMARTな営業目標に、ALIVEな問いを埋め込みたい。例えば「解約率をX%下げる」では、無機質な定量目標になっていて問いになっていない。これを「解約率がX%下がる、顧客の“真の成功体験とは”」のように変えて、目標達成を通して、何について深く考える機会にするのか?を言語化するのだ。
「チーム」のレンズについて。氷山モデルのように、目に見える表層(水面上)と隠れた深層(水面下)の両方を捉えたい。軍事的世界観のチームでは、職能・技術・役割などの表層の情報が重視される。一方、冒険的世界観では、個人が仕事や生活で大切にしている価値観や“こだわり”といった深層の情報も重視したい。
「成長」のレンズについて。冒険する組織づくりのキーワード“自己実現”とは、自分の好奇心(=内的動機、やりたいこと・興味があること)に基づいた仕事が、報酬や貢献(=外的価値、期待されること・喜ばれること)につながっている状態を言う。内的動機と外的価値は、そう簡単には、特に始めのうちは折り合わない。しかし、諦めずに試行錯誤するとやがて動機と価値が結びついて両立する。
自己実現の本質は、外的価値と内的動機の両者に整合がもたらされて「新たな自分らしさ」を発見した状態である。この整合が取れると、人は「成長した」「一皮向けた」「充実している」と実感する。しかし両立状態は長くは続かず、自身や環境の変化によって整合は揺らぐが、探究を続けることでまた新たな自分らしさを発見する。このことの繰り返しで、人間はアイデンティティを変化させていく。
自己実現の探究とは、絶えず「内的動機」と「外的価値」を結びつけながら、新たなアイデンティティを探究し続けることだ。「なぜ自分がやるのか?」がないと、人は動けなくなる。保有しているスキルと内なるモチベーションの整合性が、ロボットではない人間ならではの“自己実現”の正体、冒険する組織の肝だ。
「組織作りの羅針盤=Creative Cultivation Model」など、さらなる詳細については著書をお読みいただければ幸いだ。
■課題解決講演(1)
社員の成長と企業の成功をつなぐ
~分散した就労環境でのエンプロイーサクセス最適解~

oVice株式会社
セールス・マーケティング事業本部長
北田 眞也氏
大学卒業後、NTTデータへ入社。中央省庁から国内大手製造業まで幅広くプロジェクトに従事。その後、米国IT企業のキャリアにてビジネスアプリケーションを通じて日本企業のパフォーマンス向上を担う。2023年よりoViceに参画し、エンタープライズセールス組織の立ち上げを経て、25年より当社VP of Sales & Marketingに就任。
本日は、分散した就労環境における「見えない不安」に焦点をあて、効果的な組織づくりのためのエンプロイーサクセスに向けた具体的な解決策を紹介する。
まずは、現在の従業員の就労環境と、それに起因する従業員エンゲージメントの調査結果を紹介する。“9割以上の従業員が出社”が約37%/拠点数(支店数)とフロアを合わせて100以上が約21%、約90%が出社しても複数拠点に分散した就労環境で業務を行っている/「相手の状況(周囲の状況)がわからない」「必要なときにやりとりができない」といった声が多い。
つまり出社しても、仕事の進み方が遅い、捗らない/人のネットワークが広がらない/誰がどこにいるかわからない/報連相が難しい、といった状況にある。これらは、分散型就労環境に起因する新たな課題だ。“オフィスに出社=就労環境の課題解決”とはならない。“オフィス⇔リモート”という考え方が間違っているのである。
仕事関係者で自分の視界の範囲にいる人は限られるし、共有される電子予定表をこまめに更新する人もほぼいない。「実は全員リモート」が正しい現状認識である。チャットやWeb会議ツールだけでは、同期×偶発会話が失われやすい。
調査結果紹介に戻る。70%以上が出社あるいはリモート勤務かを選択できる環境におり、80%以上から「基本的にリモート勤務がよい」「出社とリモート勤務を組み合わせたハイブリッドワークがよい」/75%以上から「リモート勤務制度があることは仕事を選択する上で大変もしくは少し重要である、との声が上がっている。
従業員は、働く場所や働き方の選択肢を持てることを期待している。「物理的な所在に関係なく一緒に働けないか?」「新しい就労場所は考えられないか?」「テクノロジーを適切に使うことで意志決定速度がさらに高められて、企業価値・競争力を強化できる働き方を見いだせるのではないか?」……こうした問いを解決するのが、当社が提供する社員がどこに居ようと一緒に働ける場所「デジタルワークプレース=ovice(オヴィス)」である。
例えばアバターを近づけると声が聞こえ、離れると聞こえなくなる(声かけ)。誰と誰が話しているのか、誰が一人なのか、各社員の現状が見える(可視化)。下記スライドの右上の象限にoviceは入る。

oviceで会話をすると、リアル会話に比して以下のようなメリットがある。(1)議事録を自動生成することによる生産性の向上 (2)Chat GPTを活用(連携予定)してボタン1つで簡単に議事録の校正とサマリ化 (3)自動翻訳機能により居住地、言語にとらわれない人材採用や真のWork from anywhereを実現。さらに、実際にどれくらい会話が増えたか、などの分析ができ、施策検討・実行・検証・構造改革につなげることが可能だ。
コラボレーションが増える「話しかけ(られ)やすい機会が増える」ことで、チーム内外の知見や情報の流通が促進され、判断が早く行われ、顧客対応力・業務遂行力が高まっていくという顧客の効果実感を確認できる。最近、デジタルワークプレースの有料登録ユーザー数は18万人、利用企業は4000社以上となった(J:COM、LIXIL、戸田建設の導入実績紹介あり)。
新たな就労環境=デジタルワークプレースにいれば、先述の分散型就労環境に起因する数々の課題を解決でき、所属意識向上や働き方のDE&Iにつながる。働き方の柔軟性を確保しながら、従来の対面環境と同等以上のチームエンゲージメントと成果を実現する。
個人とチームの力を最大限に引き出すこの新しい働き方により、組織の生産性と業務効率が向上し、その効果は顧客価値の創出へと還元される。これが企業の持続的な競争優位性とエンプロイーサクセスをもたらす好循環を生み出す。
■特別講演(1)
大和ハウス工業の人的資本経営の取り組み
~事業を通じて人を育てる“エンプロイーサクセス”実現への挑戦~

大和ハウス工業株式会社
常務執行役員 人事・人財組織開発・Well-being統括担当(講演当時)
石﨑 順子氏
1960年生まれ。83年、大阪大学法学部法学科卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。85年、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)にて管理部門(人事・総務・事業統括等)全般に携わり、95年から福岡ドームプロジェクトに参画。99年、コスモスライフ(現大和ライフネクスト)取締役、常務取締役を経て、2016年に代表取締役社長就任。22年より大和ハウス工業 常務執行役員。
当社は、パーパスとして「生きる歓びを、未来の景色に。」を掲げ、2055年に迎えるグループ創業100周年に向けて、生きる歓びを分かち合える世界の実現に向けて、再生と循環の社会インフラと生活文化を創造する役割があると考えている。
パーパス実現のために必要な人的資本の最大化と、組織・人財の変革による社会価値や事業価値の最大化と、当社らしさ(創業者精神)の継承・発展による着実な成長(創業100周年に売上高10兆円達成)も目指している。
具体的な施策としては、人的資本への投資を加速させる一環として報酬水準を引き上げ、人財の定着・確保を図っている。2025年4月改定のポイントは、業績に左右されない月例給与水準の引き上げだ。また、高齢化・人口減少社会の到来を見据え、シニア社員が生涯イキイキと活躍できる制度をこれまで段階的に整備してきた。具体的には(1)選択(65歳、67歳)定年制 (2)役職定年制の廃止 (3)アクティブ・エイジング制度、がある。
◎人財育成ポリシー
当社の人財育成ポリシーのコンセプトフレーズは“Keep Learning, Growing, and Dreaming”(学び続けよう、成長し続けよう、そして、夢を追い続けよう)。育成の基本精神・哲学は「事業を通じて人を育てる」。成長Storyとしては、実践を通じて自分の基盤をつくる⇒独自性を活かし、個性を確立する⇒新しい価値を生み出すパイオニアになる、だ。そのための「機会・仲間・職場」という3つの基盤作りを大切にし、“学び”のバトンを未来へ繋ぐ。
人財育成のエコシステムは下記スライド参照。事業が人を育て、人が事業を育て、歓びが広がる循環を意識している。

キャリア自律を促すための支援スキームも構築している。自身のキャリアを考える機会としては例えば、上司×部下の日常の「1on1」/年に一度の「セルフディスカバリー制度」(自己申告制度)/節目のタイミング毎の「キャリアデザイン研修」がある。挑戦する機会としては越境キャリア支援制度(副業等)/社内起業制度など。そして学び・研鑽する機会としては「グローバル・トレーニー制度」/学びのプラットフォーム「&D Campus(アンドディーキャンパス)」などがある。
越境キャリア支援制度には、副業(当社が斡旋する副業先に対して案件ごとに公募を行う。もしくは社員自らが副業先を探し、副業を行う)、社内副業(現所属のまま所定労働時間の一部を使い他部署の業務等に従事する)などの実務型と、越境体験・学習プログラム(会社が提携する体験型プログラムへ社員を公募し派遣する)、越境学習アルムナイ(副業や越境学習経験者による社内コミュニティを形成する)などの研修型がある。
“Daiwa Future100(ダイワフューチャーワンハンドレッド)”という社内起業制度も用意されている。グループ全役職員から広くビジネスアイデアを募集し、起案者自らが代表(事業化後の社長)になることを目指すプログラムで、「志」と「ビジョン」を持って取り組む社員を仕組み面と資金面でサポートする。未来を担う人財を発掘・育成し、挑戦する組織風土を醸成し、新規事業群を創出する狙いがある。ちなみに総予算は300億円だ。
多様な学習コンテンツを取り揃え、必要な時に必要な学びにアクセスできる学習プラットフォームが「&D Campus」。「深める学び」と「広げる学び」の両面から自律学習を促し、主体的に学び続ける人材を育成する。先述のセルフディスカバリーに入力された情報を活用し、従業員個々の「キャリア志向」や自認している「成長課題」に合わせた学習プログラムや学習コンテンツを推奨する。
また、ミドルマネージャーのマネジメント力をアップデートし「業績が上がるマネジメント」と「ヒトが活きるマネジメント」の好循環を生み出すために、約2,000名のライン管理職全員対象に職場実践型の「人財・組織マネジメント力強化プログラム」を実施している。24年度からの4年間をかけて、全員が受講を完了予定だ。
大和ハウス工業のサクセッションプラン「D-Succeed(ディーサクシード)」では、持続的に成長するために、会社や事業を変革できる経営人財候補者の選抜・見える化と計画的・意図的な育成・輩出を推し進める。経営人財候補者の情報や育成課題を経営層と共有し、キーポジション任用に活かす。
人財情報の可視化については、タレントマネジメントシステムの導入により、企業経営・戦略と人財のマネジメントを強く連動させ、パーパスに紐づく人的資本経営の実現を加速する。ウェルビーイングな組織を構築するための人財の可視化を行い、人事施策⇒事業戦略⇒経営戦略という流れの先に“将来の夢”実現と利益の獲得があると考える。人財という宝を大切に磨き上げ、よりよい未来を共につくりあげたい。
■課題解決講演(2)
その想い届いてますか?
理念浸透がもたらすエンゲージメント最大化への近道

株式会社ヤプリ
ピープル&カルチャー本部 人事・総務部 部長
二宮 渉氏
自動車関連企業にて法人営業、HRを経験。その後、大手デジタルアニメーションスタジオにて国内・海外に渡るHRのグループ責任者として従事。2022年にヤプリに入社し、23年人事部長に就任。24年よりピープル&カルチャー本部の部長として人事総務領域を担当。
当社は「デジタルを簡単に、社会を便利に mobile tech for all」というミッションを掲げ、ノーコードのアプリ開発プラットフォームyappliを展開している。自社アプリで企業のさまざまなビジネス課題を解決し、モバイルDXを加速させる。
既に880以上のアプリ導入実績があり、あらゆる業界のリーディングカンパニーがYappliを活用してモバイルDXを推進している。Yappliで作られたアプリは累計2億ダウンロードを突破。Yappli UNITEによって従業員アプリにも広がったことが大きく寄与した。
従来、アプリは顧客エンゲージメント向上のために店舗やECで活用されてきたが、昨今は従業員エンゲージメント向上のために社員向けに活用されることも多い。「ノーコードで、社内アプリを簡単に」。Yappli UNITEはそのためのサービスで、HR tech市場の組織エンゲージメント、従業員エンゲージメント領域に寄与する。
従業員エンゲージメントとは、組織と社員との関係を示す指標。圧倒的な人材不足/働き方の多様化/人的資本経営の実践を背景に、組織と社員が相互に信頼できる関係性を構築することが重要視されている。
従業員エンゲージメントが高まっていると、自己効力感を感じる/前向きに仕事に取り組める/仕事の意義を感じる/新しいことにチャレンジできる/成長を感じる/この組織で何かできると思う、といったマインドが醸成される。従業員エンゲージメントの高低は、離職率や生産性の高低に大きく影響するため、ないがしろにできない。NTTコムオンラインの調査によると、業界を問わず、NPS※が高い企業ほど従業員エンゲージメント(eNPS)のスコアが高く、ビジネスパフォーマンス=売上の平均成長率も高い。顧客ロイヤルティが高い企業のeNPSは高く、eNPSと業績は連動していることが分かる。
※NPS=ネット・プロモーター・スコアは、顧客ロイヤルティを測るための指標の一つ
経営者の想いは従業員に届いているだろうか?働き方の多様化が進む中で、情報浸透・共感の獲得に苦戦している会社は少なくない。
経営者側は、経営方針・理念が浸透しない/社内ポータルがあるのに見てもらえない/人材育成して従業員を定着させたい/一体感と協業を醸成する組織にしたい、という課題を持つ。一方、従業員側は、会社の方向性がわからない/色々な情報があって探せない、見づらい/学ぶ環境がない、成長実感がない/誰が何をやっているかわからない、という意識を持っている。
アプリ導入の効用としては、インターナルコミュニケーション促進やリスキリングなどがある。

◎なぜ社内アプリ?
最も身近なデバイスであるスマホに入れるアプリは、場所を選ばずいつでも・どこでもアクセスできる。情報が蓄積でき、圧倒的に伝わりが速く使いやすいため、社内情報浸透のツールとして最も適している。例えば、台風や雪など悪天候の日は、会社からメッセージを速やかに送ることができる。蓄積型のコンテンツ(学習コンテンツ、経営メッセージやコラムなど)は移動中や休憩中についでに目に入る。
アプリなら情報を集約できる。先述のように社長や役員の言葉に常に触れて情勢に適応した理念の浸透を図ったり、各種資料やマニュアルをペーパーレスでデジタル化したり、新しいスキルを効率的に習得=リスキリングに寄与する。
※ANAホールディングス、TBSテレビ、三菱UFJ信託銀行の事例紹介あり
なお、アプリのアイコンは、会社のオリジナルデザインにできる。ブランドを意識させ、ロイヤルティを上げるために組織カラーを表現できる圧倒的なデザイン性もYappliの特徴だ。閲覧状況などアプリ内での行動をダッシュボードから把握したり、サーベイ・分析で組織の健康状態を把握することも可能。従業員が能動的に情報を取得する仕組みを作り、従業員の日々の行動を計測するというPDCAを回していくことが、従業員エンゲージメントの向上につながる。未経験の担当者でも安心な、手厚いサポート態勢も用意している。
経営理念が浸透することによって、必然的に現場単位での判断ができるようになり、自己効力感が向上したり会社が好きになるきっかけとなり、エンゲージメント向上につながっていく。
■特別講演(2)
「幸福のヒント」
~同調圧力とエンパシー~

作家・演出家
鴻上 尚史氏
作家・演出家。新居浜市出身。1981年に劇団「第三舞台」を結成し、以降、作・演出を多数手がける。これまで紀伊國屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞など受賞。舞台公演の他には、エッセイスト、小説家、ラジオ・パーソナリティ、映画監督など幅広く活動。著書は表現力や、演出に関するものから、教育、世間、同調圧力など多岐にわたる。
世界の中でも、日本は特に「同調圧力」が強い。日本人は「世間」には生きているけれど、「社会」には生きていない。知っている人たち=世間とコミュニケーションする手法や技術は非常に発達しているが、知らない人たち=社会に対してどうアプローチしたらいいか、が分かっていないのが大半の日本人だ。
知っている人たちだけでコミュニケーションをとる「世間」には、いくつか特徴がある。
まず、(1)年上がえらい。例えば、体育会運動部では下級生が奴隷で、上級生は王様のようにふるまう。日本人はそう刷り込まれてしまっている。(2)同じ時間を生きる。例えば、日本の会社の長い会議はダラダラと一緒に同じ時間を過ごすことが目的なのだ。朝礼や朝会も然り。(3)贈り物が大切。互いに贈り物をしあうことでその世間のメンバーとして認められる。(4)謎ルールが多い。「みんな言ってるよ」といった曖昧な言葉がまともに受け止められたり、家から近い取引先に直行せずわざわざ朝礼や朝会のために会社にいかなければならない、など。
日本で重視されてきた「協調性」と、最近尊重の機運が高まりつつある「多様性」の違いについて。例えば、飲み会で各人が好きなドリンクを注文すると時間がかかる。そこで「全員とりあえずビールでいいだろう!」と怒り出す人がまだまだいる。各人が好きなものを飲んだほうが幸せだろうに……。部活で言えば、「まとまることで試合に勝とう」が、「まとまることが目的」に、いつのまにかすり替わっている。試合に勝つかどうかは結果として明確に現れるが、まとまること自体は何の結果にもつながらない。
「中学生らしい、高校生らしい服装」「華美じゃない服装」も禅問答のようで分かりにくい。以前は明文化せず言葉にしなくても済んだことが、今は言葉にしないといけない時代になっている。自分の周囲がどういう世界なのかをきちんと言語化しないと、若い人や外国人と良いコミュニケーションはできない。
自分の会社を見て「なんでこれが残っているんだろう?」「なぜこれをやるのだろう」とひっかかり、それが何の合理性や効率性を持たないなら止めなければならない。それを経営者や管理職は決断・決定しなくては。「入社式」「運動会」などについても、つながること=ボンディングのために本当に必要かどうかを改めて考えるきだ(全てが不要というわけではなく、こうした行事を評価する外国人もいる)。
ユニコーン企業が日本に少ないのも「中高生らしい服装」「服装の乱れは心の乱れ」に代表される謎ルールで学生時代に思考を停められ縛られてきた結果ではないだろうか。若い演劇人と仕事をし、話すと「そんなことをやっていいんですか?」という反応がよく返ってくる。ルールをどう守るか、どうルールに従って創意工夫をするかについては一生懸命考えるが、ルールの枠組みそのものを疑うという訓練が本当にできていない。
「なぜそのルールがあるのか、なぜルールが必要なのか」という根本のところを思考しない。これは教育の問題だ。枠組みを疑うことを止めてきた教育が悪い。枠組み自体を疑って、自分で考える若者達をつくっていかないと、会社もこの国もだめになる。
学校が、ルールを守って団結を重視し従順で与えられた条件のもと創意工夫をする優秀な工場労働者を作れば良かった時代は終わった。サービス業がGDPの70%を超えた今、求められているのは枠組みそのものを疑い、「なぜこれが求められているのか」「なせこれが必要なのか」といった根本・本質のところを考えることだ。
世間は「所与性」、つまり同じことをとにかく続ける特徴が強い。心理学的に言う「現状維持バイアス」である。年貢制度があったムラ社会の日本は共同体を守る意識が強く、世間を社会に変えようとした明治政府は、軍隊や教育(学校)において言うことを聞かない人々の対応に困った。会社経営者も困った結果、会社に先述の(1)年上が偉い=年功序列 (2)同じ時間を生きる=終身雇用 などの世間のシステムを強引に組み込んだ。
震災・天災があっても団結、絆の力で復興が非常に早いなど「世間」には良い面も確かにある。なお、世間の特徴には先述の(1)~(4)に加えて(5)「排他性」もある。会社経営者は、自社の「世間」の度合いを知るべきだ。そして、ライバル会社や取引先会社の世間の度合いをも把握し、もし相手がそれが強ければ、(1)~(5)を尊重し対策・対応して攻略するという手もあるのではないか。敵を知れば戦い方はある。

2025年2月19日(水) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局

