奈良ホテルで夜の11時まで会話が弾んだ
※中西進さんが登場したグラビア「日本の顔」もぜひご覧ください
「もう、未定訓など許さない!」
3月8日、二松学舎大学で開催されたシンポジウムの基調講演で、改めて私はそう決心しました。
定訓とは、漢文などにおいて、一般に定着している訓読文のこと。いわば「正しい読み方」です。万葉集には4500首の和歌が収められていますが、漢字で書かれているため、すべての歌の読み方や意味が明らかになっているわけではありません。
なかでも、「万葉集最大の難訓歌」とされるのが、額田王が詠んだ「莫囂圓隣歌(ばくごうえんりんか)」と呼ばれる歌です。とくに難しいのが、冒頭の「莫囂圓隣之 大相七兄爪湯氣」です。江戸時代から数多くの学者が挑んできましたが、意味どころか、読み方すらハッキリしない。これまで考えられてきた訓読文は、30種類余りに及びます。
私は40年以上前に全ての歌を現代語訳した『万葉集 全訳注原文付』(講談社文庫)を出版したのですが、たった一つだけ冒頭から読めなかったのが、「莫囂圓隣歌」。長い間、居心地の悪さを感じてきましたから、今回、改めて挑戦することにしたのです。
シンポジウムでは、漢籍や古代史上の人物を分析して、冒頭部分を「鎮(しづ)まりし 大君そ逝(ゆ)け」とする新たな読み方を提示。歌の中に登場する「吾瀬子(わがせこ)」、つまり「愛しい人」は、中国の「大兄」の用例も参考にして、中大兄皇子(天智天皇)としました。額田王はほかに、「君待つと わが恋ひをれば わが屋戸の すだれ動かし 秋の風吹く」と、天智天皇を偲んだ歌も作っています。これと同じく、彼を思って詠んだ和歌であることを指摘しました。
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