千年の恋、百年の愛

中西 進 国文学者
ライフ 読書 ライフスタイル

 人類の恋愛はもちろん神話以来のことだ。地球の西では、物語がエデンの園の男女から始まり、日本でも、(あめ)御柱(みはしら)をめぐる男女の神様の、具体的な性の交歓から神話が始まるのだから。

 人間が人間であることの証明が、性の交歓だった。しかも二人(二神)は木の実を食べること、賛美のことばを発することを、条件に添えた。

 男女の性は文明だったからだ。

 だから性交には必ず神さまの証明が求められた。この証明の上に成立したのが、日本ではまず「恋」だった。それを満載しているのが、日本最初の歌集『万葉集』だというのは、理屈が合いすぎている。

『万葉集』では、

  魂合(たまあ)はば (あひ)寝むものを 小山田(をやまだ)の 鹿猪田禁(ししだも)るごと 母し()らすも (12巻3000)

と歌う。恋人とわたしの魂が合体したと神さまが承認してくれたのだから、共寝をしてもいいのに、お母さんは鹿や(いのしし)から田んぼを守るようにして彼と会わせてくれない、というのが彼女の不満だ。「恋い」は「乞い」。神様に二人の魂を合体させて下さいと願いつづけて、やっと魂が合体出来た。さあ恋は承認をうけた、という次第である。

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source : 文藝春秋 2023年7月号

genre : ライフ 読書 ライフスタイル