現代人は過剰に敏感になっている
東京・国立市で生まれ育ち、湯川秀樹さんのもとで物理学を学ぼうと京都大学理学部へ進学しました。志賀高原のスキー部合宿でサルを観察する先輩と遭遇したのが運命の分岐点。関西文化圏の人類学研究室で学んだこと、日本列島を縦断しニホンザルのフィールドワークで経験したこと、そしてゴリラ研究者としてゴリラから教わったことが、いま私が心していることの中心にあります。
(1)何が起こってもゴリラのように泰然自若
2014年に京大総長に任命されますが、まさに寝耳に水。突如始まった就任会見で記者に座右の銘を聞かれ、咄嗟に浮かんだ言葉がこれです。以来、本当に私の座右の銘になりました(笑)。
何が起こってもうろたえない、対応しない。鈍感なようにじっと構えている。ゴリラはそうなんです。特に、リーダーのオスは「動かないこと」がリーダーたる所以。あちこち動き回っていてはみんながついて行けないし、じっと動かずそこにいることで様々な出来事に対処できる。
かつて、松下電器の松下幸之助さんは、リーダーとして成功する人の3つの条件を社員に示したそうです。「愛嬌」、「運が強そうなこと」、そして「後ろ姿」。これはまさにゴリラのリーダーそのものといえる。
「愛嬌」についていえば、ゴリラは仲間から信頼され、担ぎ上げられて初めてリーダーになる。リーダーには、本当は強いのに、その力を抑えることのできる「抑制力」が備わっています。どんな巨体でも、子ゴリラや他の動物とも無邪気に遊ぶことができます。それから、「こいつに付いて行ったら何かいいことが起こるに違いない」と思わせる雰囲気。実際に運がいいかどうかではなく、あくまでも雰囲気です。「後ろ姿」でいえば、ゴリラのリーダーのオスの背中は真っ白。「シルバーバック」といって、暗いジャングルにぽっかり浮かんで大きく見える。その背中を目印にメスや子どもたちが付いて行く。振り返るとその白が隠れてしまいますし、振り向くのは自信のなさの表れでもある。だから振り返らず、背中で語る。泰然自若としたゴリラのリーダーの本質を、松下幸之助さんがぴたりと言い当てていたのには驚きました。
人間でも、昔の男の粋な態度とか、江戸っ子の気風のよさには近いものがあったように思います。いまの時代は変化が激しくなり、適応しなければ、と誰もが過剰に敏感になっている。もっと鈍感でいいんじゃないかというのが僕の持論です。
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