（1）どんなに困難な道であっても、やりたいことを追求する

　私の人生は挫折の連続でした。生まれはハンガリーのソルノクという小さな町で、水道も電気も通っていませんでした。誰もが貧しく、その日暮らし。父親は精肉業を営み、母親は帳簿係として働き、二人三脚で生計を立てていましたが、ぎりぎりの生活でした。

　私は小さいころから好奇心が旺盛で、特に人体の謎に関心を寄せていました。人間はなぜ生命を維持できるのか？　心に湧き上がる問いは尽きることがありませんでした。

　大学で生化学の博士号を取得して、地元の研究機関で研究員として働いていましたが、1980年代に入るとハンガリーは深刻な不況に陥り、研究資金が打ち切られました。私は職を求めて、RNAの研究をしている欧米の大学に連絡を取りましたが、なかなか良い返事をもらうことができませんでした。色々手を尽くしてようやく返事が来たのは、アメリカのフィラデルフィアにあるテンプル大学。そこでポスドクのポストを得ることができました。

　当時、夫はハンガリーでエンジニアとして働いていましたし、娘はまだ2歳で、母も姉もハンガリーにいたので、母国に残りたかったのですが、自分のやりたい研究を続けるためには渡米するしか選択肢がありませんでした。

　私は高校生のとき、恩師から1冊の本を薦められました。ストレスの研究で世界的に有名なハンス・セリエ博士が書いた『生命とストレス』（邦訳、工作舎）という本です。そこにはこう書かれています。

〈自分ができることに集中すること。他人がしていることや他人がするべきことを気にして時間の無駄遣いをするな。他人を変えることはできないのだから〉

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