ソニー“再生”の立役者が明かした部下との距離感
(1)「好き」という情熱で生きてきた
子どもの頃から、好きなことにはとことんこだわる性格でした。幼少期から機械が好きで、プラモデルを組み立てたり、特に車には熱中しました。今でも車が大好きで、大学時代に初めて買ったマツダの「RX-7」には特別な愛着があります。英会話スクールでアルバイトをして、ローンを組んで買いました。燃費は良くありませんでしたが、最高にかっこよかった。ホイールとステレオは全て交換し、その後、4年間で4台乗り換え、どんどん車にのめり込んでいきました。
車と同じくらい音楽も大好きだったので、車内ではダンスミュージックを流して、授業をさぼってはドライブに出かけました。みんなが知らない曲が好きで、輸入盤の12インチシングルを扱うお店に行ってはテープにダビングして、周囲に自慢する。六本木のディスコにも音楽を楽しみに行っていましたが、お酒が苦手だったので、しょっちゅう友達を車で送り届けました。もう死語かもしれませんが、まさに「アッシー君」です。
音楽好きが高じて入社したのがCBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)。入社後は趣味と仕事は完全に分けましたが、「好き」という情熱を大切にした結果が、今の私です。
(2)誰が何と言おうと曲げない
私がCEOに就任した2012年当時のソニーの業績は、非常に厳しいものでした。とりわけテレビやパソコンなどエレクトロニクス事業を担う部門の赤字が続き、「衰退する日本の象徴」のように報じられました。特に8年も続いたテレビ事業の赤字は深刻で、周囲からは「テレビはいつ売却するんだ」と、何度も言われました。かつてソニーの看板商品だったテレビは、「ダメになったソニー」の象徴になってしまっていたのです。しかし私には、エレキ部門は絶対に黒字化できるという自信があった。この時に大事なのは、自分なりの軸を持って検証し、正しいと判断したのであれば、誰が何と言おうとそれを曲げないことです。
当時、テレビはサムスンやLGといった韓国勢が世界で売上を伸ばし、中国勢も台頭していました。こうした中で、ソニーは利益を犠牲にし、安さを売りにした海外勢との価格競争に苦しんでいる状況でした。しかし本来、ソニーが勝負すべきは、長年、培ってきた技術による映像美や音質のクオリティ。価格競争という本来は上がるべきではない土俵から下り、海外製品と差異化できれば、必ず勝算があるという確信がありました。もちろん簡単ではありませんでしたが、4K映像やハイレゾ音源に対応した製品の開発に注力し、2014年度、ついに黒字化を達成することができました。
「ソニーがテレビをやめるか、平井が辞めるか。どちらが先になるのか見ものだな」などと嫌味を言われたこともありましたが、雑音に惑わされず、自分が正しいと思った確信を曲げなかった結果だと思います。
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