4月14日、東芝の車谷暢昭社長兼CEO(63)が任期途中で辞任し、前社長の綱川智氏が復帰する人事が発表された。三井住友銀行副頭取を務めた車谷氏は、2018年4月に東芝のCEOに就任すると、不正会計や米国での原子力事業失敗などに揺れる同社の再建に取り組んだ。物言う株主(アクティビスト)の攻勢にさらされながらも、今年1月には東証一部へ復帰。一定の成果を上げた。
一方で、4月6日に英国系投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズから2兆円を超える買収提案がもたらされた中で起こった急転直下の辞任劇は様々な憶測も呼んでいる。渦中の車谷氏が独占インタビューに応じ、辞任直後の胸中を語った。
車谷氏
急転直下の辞任劇
車谷 いまの率直な気持ちは「ミッション・コンプリート」です。東芝の再建をやり切った充実感がありますし、心残りはありません。これもすべては幹部、従業員のみなさんの努力のたまもの。拙い私のもとでいっしょに改革に取り組んでくれたみなさんに心から感謝しています。
東芝の役職からは完全に退きましたから、いまは自宅で料理を作り、掃除をする日々を送っています。しばらくは家族とゆっくり過ごし、心身ともに充電したいと考えています。
いま残念に思っているのは、私の辞任と買収提案がもたらされたタイミングとが重なってしまったことです。結果として大きな混乱をもたらしてしまったことは、本当に申し訳なく思っています。
この3年間の再建過程は、物言う株主への対応やガバナンスのあり方など現代における経営の重要な問題を多くはらんでいます。若い経営者はもちろん、国民の方々に対しても、東芝のような社会的意義の高い企業の再建で何が起こっていたのかを伝える責務があると考え、インタビューに応じることにしました。
就任時の「唯一のお願い」
——就任当初の東芝は、不正会計問題によって東証二部に格下げされるなど、いわば瀕死の状態で、経営トップを引き受ける人がいなかったと聞いています。あえて就任を決意したのはなぜですか。
車谷 正式な打診を受けたのは2018年1月です。取締役会議長を務めていた小林喜光さん(三菱ケミカルHD会長)、指名委員会委員長の池田弘一さん(アサヒグループHD相談役)、そして綱川社長から帝国ホテルに呼び出されました。
このとき、高止まりした固定費や収益性の低さなど、東芝の構造的問題について説明がありました。前年末に実施された6000億円の増資に伴い、多くの物言う株主が主要株主となったことで、「数年後には解体されるだろう」と憂慮の声が出ていた頃でした。しかし、3人の方からは、「いかに厳しい状況でも東芝は国民にとって大事な会社であり、何が何でも守る必要がある。どうしても君に受けてほしい」と。
正直、「そんなことができるのか?」と尻込みもしましたが、小林さん、池田さんからの真剣な説得に心を打たれました。
私が最終的に決断したのは、「大義」のためです。東芝は140年以上の歴史を持ち、12万人を超える従業員が働く名門巨大電機メーカー。原子力や水道などの社会インフラに加え、AI技術に関する特許件数がIBMとマイクロソフトに次ぐ世界第3位を誇るなど、先端科学技術分野における日本の財産でもあります。私を信じて機会を与えてくれるのであれば、これを復活させてお戻しする責務があると考えました。
引き受けるにあたって、お三方には一つだけお願いをしました。それは会社における私の基盤の安定です。東芝の取締役会の大半は独立した社外取締役が占めており、CEOといえども取締役の一人に過ぎません。基盤が安定していないと失敗は必定。しかも私は外様ですから、取締役会議長と指名委員長からの全幅の信頼しか当てにできませんでした。
——つまり、“後ろ”から弾が飛んでこないようにしてほしい、と。
車谷 それが唯一の希望でした。小林さんと池田さんは「しっかり支える」、綱川さんも「内部は自分がきちんと支えていくから」と約束してくれました。
車谷氏を支えた小林喜光前議長(左)と池田弘一元指名委員長
外部人材を積極的にスカウト
——東芝は巨大企業です。どこから再建に手を付けたのですか。
車谷 まず力を入れたのは、調達改革を軸にした費用構造の改善です。モノづくりの川上から川下まで、すべてのプロセスにかかるコストを見直したのです。従業員が本気で取り組んでくれたおかげで、3年間で1300億円の削減につながりました。
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