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政権に財界人・軍人が多いのはけっこう当たり前

 一方で、トランプが自身に近い「ビジネス界・軍界の成功者」を多数、政権の主軸に置いたのは異様に思われているが、これは至極当然の判断といえる。トランプ政権は事実、「歴史上、おそらくもっとも弁護士比率が少ない」(ギングリッチ元下院議長)が、これはアメリカ政治の本来の姿なのである。初代大統領のワシントンは大規模な農場経営者で、建国の父の一人ベンジャミン・フランクリンは出版業者。日米修好通商条約を締結した初代駐日公使・ハリスは、中卒の貿易商だった。建国時から、「民間登用」はアメリカの経済力、政治力、軍事力の源泉である。

初代駐日大使・ハリスもビジネスマンだった。

 その点について、トランプから国防長官に指名された元軍司令官のマティスはこう説明する。「我が国の国家安全保障力はいつの時代も経済力と等価だ。そのことは、歴史を振り返れば、ローマ帝国でも大英帝国でも同じだ。ソ連でさえも財政規律が維持できないかぎり、軍事力は維持できなかった」。トランプはさらに突っ込んで、「私は実際、大統領として、偉大なわが社を経営しながら、同時に政府を運営できるのだ」と、アメリカ本来の民の力、大統領のビジネス力の重要性について力説した(2017年1月11日の記者会見)。

アイゼンハワーもメキシコ移民対策をしていた

 こうしたビジネス界・軍界の精鋭が集う政権といえば、1950年代のドワイト・アイゼンハワー(第34代大統領)政権が思い浮かぶ。

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アイゼンハワー大統領

 アイゼンハワーはアメリカを代表する企業経営者を要職にすえた。たとえば、財務長官に大手鉄鋼メーカー社長ジョージ・ハンフリーにした。国防長官には自動車大手GM社長チャールズ・ウィルソンを、保健教育福祉長官には写真大手イーストマン・コダック社の財務責任者バイヤード・フォルソムを指名した。政権2期目の国防大臣に就いたのは、「ブランド・マネジメント」創始者にして、P&G社長ニール・マッケロイであった。

ジョージ・ハンフリー財務長官

 そうしたビジネス成功者のチームをまとめたのが、軍界出身者であった。その代表が、自身が「ヨーロッパ連合国軍最高司令官」など輝かしい軍歴を誇る大統領アイゼンハワー自身だ。若干39歳で副大統領となったリチャード・ニクソン(37代大統領)は第2次大戦で活躍し、従軍中、「海軍きってのポーカーの達人」として名を馳せ、政界に進出した人物。退役軍人出身者はニクソンのほか、ダグラス・マッケイ内務長官、シンクレア・ウィークス商務長官、ウィリアム・ロジャース司法長官などがいる。「退役軍人が政府の要職を占めるのは、初代ジョージ・ワシントン大統領からアイゼンハワー大統領までのアメリカの偉大な伝統だ」(ワシントンポスト紙)

 安全保障面でもアイゼンハワーとトランプ政権の類似点がある。メキシコからの不法移民対策だ。アイゼンハワー政権は、メキシコ政府とも協力し、退去プログラムを組み、政権1年目だけで100万人以上を送還した。トランプはこの計画を成功例として自著で取り上げ、同じように「移民システムをコントロールできる包括的なプログラム」が必要だとし、メキシコと交渉することを公約にしている。

 自由企業体制を信奉するアイゼンハワーは、経済人こそ国内リーダーにふさわしいと考えた。一方、軍人として複雑な国際関係をみてきたアイゼンハワーは外交だけは民間人にまかせなかった。国務長官には、ダレス(日米安保の“生みの親”)やハーターなど、政治・外交界のプロ中のプロを据え置いた。

 その点、国務長官にエクソンCEOのティラーソンを指名するなど、外交においてもビジネスの成功者に絶対的な信頼をおいているトランプ。比較できる大統領は存在しない。

 トランプ政権はリンカーン型か、それともアイゼンハワー型か。言えることは、実績を残してきたビジネス界・軍界出身者がアメリカの政界をリードする時代がきたことだ。政治家が権謀術数におぼれ、国民の信頼を失う中、民と軍が力を発揮する本来のアメリカらしい政権であることはまちがいない。

写真=getty