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 EU、日本、中国は2100万ドルをカンボジアで選挙を実施するための資金として送っている。EUとアメリカは選挙への協力を取りやめたが、日本は支援をやめなかった。それが全体主義を後押ししていると受け取られた(実際にその通りなのだからしかたがない)。その結果、選挙に先立って、日本の銀座、ニューヨークの国連本部近くで公正な選挙を求め、日本政府に支援の取りやめを求めるデモが行われた(註9)

ネット世論操作は最強の非対称兵器

 これは一例に過ぎない。日本政府は、その国のことはその国の政権が解決すべき、と考えているのかもしれないが、その国で虐待されている人々や、その国の状況を改善しようと努力している他国には、独裁者やエセ民主主義を支援する国と映るだろう。

 極論を主張する候補者たちにとっての強力な武器=ネット世論操作に対する有効な対抗手段はいまのところ存在しない。ファクトチェック組織やSNSプラットフォーム事業者(フェイスブックなど)の監視強化が対策としてあげられることが多いが、必要であっても切り札にはなり得ない(フェイスブックがそれを実証している)。さまざまな方法を組み合わせて総合的に対処するしかないのだが、それでも不十分だ。

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 戦いにおいて攻撃側と防御側の負荷が異なることを非対称と呼ぶ。現状のネット世論操作は最強の非対称兵器と言える。攻撃側は低コスト、低リスクで相手に大打撃を与えることが可能で、防御側は高コストで対策を行っても防御は破られる。ならば防御側もネット世論操作で応酬すればよいという考え方もあるが、国家間の戦争において自由主義諸国がネット世論操作を仕掛けるのは倫理的に難しい。相手がやっているからといってロシアの国内でフェイクニュースを流し、暴動が広がるようなネット世論操作をしたことがばれたら大変なことになる。また、国内の選挙戦で言えば、端的に金と組織力を握った方が勝つだけである。

 2019年はすでに始まっている。日本が世界でどのような役割を果たす国か問われると同時に、日本自身もエセ民主主義化の試練に直面している。

 

註1 https://thediplomat.com/2018/09/japans-shameful-myanmar-embrace/

註2  MYANMAR, JAPAN TO STRENGTHEN MILITARY COOPERATION
http://www.mod.gov.mm/news/item/34-myanmar-japan-to-strengthen-military-cooperation

註3 角川新書 2018年11月10日

註4 Banning More Dangerous Organizations from Facebook in Myanmar
https://newsroom.fb.com/news/2019/02/dangerous-organizations-in-myanmar/

註5 'Overreacting to failure': Facebook's new Myanmar strategy baffles local activists
https://www.theguardian.com/technology/2019/feb/07/facebook-myanmar-genocide-violence-hate-speech

註6 Challenging Truth and Trust:A Global Inventory of Organized Social Media Manipulation(20.7.2018  Samantha Bradshaw & Philip N. Howard)

註7 Disinformation in Democracies: Strengthening Digital Resilience in Latin America

註8 「#CNRP is officially dissolved. Time for EU, Japan, Australia & the US to declare withdrawal from elections assistance, or they become accomplice to the death of #Cambodia democracy.」
https://twitter.com/MNVKem/status/931121172984619008

註9 「日本政府支援の総選挙にNO カンボジア人が銀座でデモ」朝日新聞2018年6月17日、「日本はカンボジア選挙支援やめて 野党がNYと東京でデモ」共同通信2018年6月17日