船長は1回の勤務で15往復
もちろん安全への配慮は万全。とはいえ、船において一番危険が高まるのは出港・入港だと言われる。宮島フェリーでは出港から10分で入港するのだから、とうぜんその頻度は一般的な航路とはケタ違いに多くなる。船長は通常、休憩を挟みつつ1回の勤務で15往復ほど。
「船長として採用する人は基本的にすでに他の船に乗っていて資格を持った人に限っています。なので、船を扱うことに関してはみんな経験豊富なプロ。それでもこれだけ出入港が多い航路はなかなかないですからね。国際航路だったら入港態勢になるのは1航海で1回か2回くらい。それが10分ごとですから。オートパイロットに任せられる時間帯もせいぜい数分。しかし毎日多くのお客様を安全にお運びすることに、喜びとやりがいを感じるようになるんですよ。世界遺産の宮島観光を楽しみに遠方から来られるお客様を毎日お出迎えしているわけですからね。船に乗って頂く、乗って頂けるという気持ちと、フェリーからの眺めを愉しんで頂きたいという気持ちが芽生えてきます」(大田さん)
強雨にも強風にも“負けない”
船というと、やはり気になるのが波や風の影響。風が強くなればとうぜん欠航せざるをえない。また、航行する海域によっては特別な注意が必要なことも多い。宮島フェリーではどうなのだろうか。
「10分間の平均風速が15mを超えるなど一定の条件下で運航の可否を判断する規定があります。ただ、欠航になるのは1年に数回しかありません。台風直撃の頻度と同じくらいですかね。もともと静かな瀬戸内海のさらに内海なので、強風が吹くことはほとんどないんです。強い雨が降っても大丈夫。もちろん船長が気を使うことは増えるんですが」(大田さん)
「大雨だとお客さまからの問い合わせも増えます。『雨がひどいけど船は動いていますか?』って。だけど雨じゃとまらない。風もよほどじゃない限り同じです。もちろん『絶対止まりません』とはいえませんが、JRの鉄道が止まっていてもこちらは動いていることなんてよくあります。鉄道の場合は止まっても代替交通がありますが、航路はそうはいかないですからね。安全に動かすことが確認できれば、可能な限り運航しています」(武安さん)