男女差別を理由に国技の相撲の興行が中止されたようなもの、といえば伝わるだろうか。スペインのある地方で国技の闘牛が違法化された後、2年を経て先日、ようやく再開された。

 すったもんだの原因は世界中で闘牛はじめ、さまざまな動物がらみの興行に反対を唱える動物愛護団体や、それになびいた自治体と、伝統を重んじる国側との対立。再開の後もその対立は深まるばかりのようだ。

闘牛再開を告げるポスター。スター闘牛士たちの写真が目印(マヨルカ島の闘牛場「バレアレス・コロシアム」のフェイスブックより)

 8月9日、地中海西部に浮かぶ3600平方キロメートルの島、スペインのマヨルカ島では、2年ぶりに再開される闘牛を前に、闘牛場の出入り口に人がはみ出んばかりに詰めかけていた。

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 両側がコアラの耳のように膨らんだ独特の黒い帽子に金や赤のきらびやかな刺繍が施された衣装をまとった闘牛士、マタドールが、背丈より少し低いほどの大きさのマントを振ると、闘牛士の数倍は大きい漆黒の牛が突進する。

闘牛再開を告げる宣伝写真。闘牛士は、布を翻して突進する牛をかわす(マヨルカ島の闘牛場「バレアレス・コロシアム」のフェイスブックより)

「芸術じゃない、虐待だ!」動物愛護団体の反対運動

 牛の突進をひらりと舞ってかわす姿に多くの観客が熱烈な歓声を上げた。だが、それをかき消すような大合唱も、プラカードとともに、その場では起きていた。

「芸術じゃない、虐待だ!」「闘牛にノーを!」

 開催決定から反対を唱え続けてきた動物愛護団体の支持者らだ。闘牛場には入らず、施設を囲むようにして反対の声を高らかに上げる人々。どんな反対運動でもみられるような光景だが、今回はさらにもう一波乱があった。会場から、さらに反対の声をかき消すような音楽が鳴らされたのだ。

 大音量で流されたのは、国内での放送が厳重に禁じられている歌「太陽に顔向けて」だった。1936年から没する1975年までスペインを率いた独裁者フランコ時代の公式讃歌だ。抑圧的なフランコ時代の記憶がまだ色濃く残るこの国で、その音楽が看過されるはずもなく、警察が捜査に乗り出す事態にまで発展した。