大学入学共通テストにおける英語の民間試験について、来年度からの導入予定が突然の延期。異例の方針転換に、教育ジャーナリストの小林哲夫さんは「強行突破すると思っていた」と話す。小林さんが話を聞いた、筑波大学附属駒場高校2年の男子生徒のインタビュー(「AERA.dot」2019 年10月25日)が話題を呼んだが、都内の東大合格者数ランキング上位校(2018年度は2位)に通う彼が、大学入学共通テストへ反対の声をあげた理由とは何だったのか。

10月30日、衆院文部科学委員会で事務方(左)から資料を受け取る萩生田光一文科大臣 ©AFLO

「受験生保護」の大原則

小林哲夫さん 2020年度から始まる大学入学共通テストで導入される予定だった英語の民間試験について、萩生田光一文科大臣が来年度からの導入の延期を表明しましたが、私は延期ではなく中止にすべきだと思います。

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 戦後、文部省・文部科学省は大学受験において「受験生保護」を大原則としてきました。大学入試は誰でも同じような条件で受けられるものでなければならない。地域格差や経済格差があってはならないんですよね。

 ところが今回の大学入試改革は、そういったギリギリの線まで侵してしまっているところがあります。受験の大原則である「機会平等」「公平性」「公正」を維持するためには、英語民間試験を導入するにしても、全国隅々に実施会場を設置しなければならない。地方都市の例としては北は稚内、南は宮古島などがメディアで取り上げられています。でも、それは不可能に近い。

 まず試験の実施会場はなかなか見つからないでしょう。国会の委員会では、高校などの公共施設を会場にすればいい、という意見も出ていますがこれはきわめて困難な話です。入試直前の多忙期に教室をきれいに明け渡すのはむずかしい。それにだれが試験監督をするのか。その学校の教員でしょうか。これも過重負担、教員の働き方改革に逆行して現実的ではありません。

2018年11月、大学入学共通テストの試行調査(プレテスト)の試験開始を待つ受験生 ©時事通信社

 ほかにも経費、試験内容、試験方法など問題点がたくさんあります。延期したからといって地域格差、経済格差が解消されるような、すばらしい政策が打ち出されるとは思えませんので、英語民間試験は中止して、根本的に見直すべきだと考えています。

 ただ、現実に延期になるとは思っていませんでした。文科省は強行突破するのではないかと。それは、延期による混乱を招きたくない、新たな制度を設計するのはしんどい、文科省への批判を避けたい、そして、官僚としてのメンツを守りたい、と文科省側は心底考えているからです。役人の習性ですね。でも、予想は外れてしまいました。首相官邸が萩生田文科大臣を守るために、英語民間試験が差し出されたという見方がなされていますが、あたっていると思います。

 文科大臣の「身の丈」発言は、教育基本法の定める「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」に反しており、まともな政権ならば更迭ものです。この文科大臣のもとで入試制度が決まるのは、たいへん不幸なことです。