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映画監督「北野武」はいかにして生まれたか

映画監督・北野武の誕生。そして傑作『ソナチネ』はどのようにして生まれたのか。

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奥山和由が死ぬまでに作りたい映画

春日 会場からの質問ですが、奥山さんが今後撮りたいと考えている作品を教えてくれませんか。

奥山 『黙示録』では重すぎて語れなかったんですが、金子正次さんの書いた『盆踊り』っていう作品の映画化だけは見届けないと自分は死ねないなっていうことがあるんです。11月6日って金子正次の命日なんですけど、11月になるといつも彼を思い出します。金子さんは『凶弾』っていう映画に出演したときに——僕としてはまったく納得いかない作品になっちゃったんですけど——現場で声をかけてきてくれたんです。『凶弾』は瀬戸内シージャックが題材になってて、日本ではじめてアメリカでいうSWATみたいな特別狙撃隊が動員された事件なんですね。第二狙撃手を演じる役で金子さんは「重要な役になる」と思って出てきたんですが、まったく出所がなかった——その現場で声をかけてきてくれたんです。

 それで、「自分はどうしても映画を作りたい。どうしても主演で演じたい。でも、自分には主演なんて回ってこない。だから自分で脚本を書いてお金を集めて撮るしかない。協力してくれないですか」と。それが『竜二』という作品になったんです。でも、僕はまったく協力できなかったんです。会社にも働きかけたんだけども、じつは(自分のなかの)自信もなかったんです。ヒット作にできるのか、踏み切るのは難しかったんです。

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「金子正次さんの書いた『盆踊り』っていう作品の映画化だけは見届けないと自分は死ねない」

 で、彼には「(松田)優作さんと会ってくれないか」「優作さんと映画をやってください」と何度も言われて。それで何回も彼(金子正次)と一緒に優作さんの家で飲んでいました。そのときに松田美由紀さんがお酒を持ってきてくれたりして。松田(美由紀)さんがいつも言ってたのは「奥山さん、一人なんか違うわよね」って。優作さんも「こいつ妙に明るいよなあ。きっとあんまり物を考えないんだよ」って言うわけです(笑)。

 11月になると思い出すんです。11月6日に金子さんが亡くなったとき、何日か経った後、優作さんが「金子は映画を作りたいって思っている皆を呼ぶよ、きっと」って言ったんです。優作さんは6年後の11月6日、同じ日に亡くなったんです。優作さんとは「『ブラック・レイン』っていうのを撮るんだよ」と言っていたときに会ったのが最後でした。同時に深作監督とも優作さんが主演でヒットマンを演じる話もあったんです。結局、優作さんとも1回も仕事ができなかった。

当日の会場

 なによりも金子正次の『竜二』っていう映画は大傑作だったんです。本当に彼の自力で集めたお金で作ったものですけど、ぜひ今からでも観てほしい。彼が亡くなった後、奥さんが俺がいつも「そのジャンパーいいね」って言ってた赤いジャンパーを遺品としてくれたんです。映画化された『獅子王たちの夏』『チ・ン・ピ・ラ』『ちょうちん』、彼が遺したもう一本が『盆踊り』なんです。それをなんとか映画にしたい。だけど、いまだに映画化されていないんだよね。

 だから11月6日、俺は公私ともに大事な人を亡くしていて。11月になると、いつも『盆踊り』のことがとても気になるんです。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

プロフィール

 奥山和由(おくやま・かずよし)

 …1954年生まれ。映画プロデューサーとして『ハチ公物語』『遠き落日』『226』などで記録的大ヒットを収める。一方、北野武、竹中直人、坂東玉三郎それぞれを新人監督としてデビューさせる。また今村昌平監督で製作した『うなぎ』は、第50回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。94年には『RAMPO』を初監督、99年『地雷を踏んだらサヨウナラ』はロングラン記録を樹立。日本アカデミー賞優秀監督賞・優秀脚本賞、日本映画テレビプロデューサー協会賞、藤本賞、他多数受賞

春日太一(かすが・たいち)

 …1977年生まれ。時代劇・映画史研究家。『天才 勝新太郎』『仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版』『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』『鬼才 五社英雄の生涯』『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』など著書多数。

鍋島壽夫(なべしま・ひさお)

 …1953年生まれ。『四十七人の刺客』『バトル・ロワイアル』『日本のいちばん長い日』など90作品を超える映画をプロデュース。日本を代表する映画プロデューサーの1人。三船プロダクション、ライトヴィジョンなどで重役を歴任。東映にてプロデューサーとして従事。奥山和由とは『ハチ公物語』『その男、凶暴につき』などを共に手掛けた。

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