1ページ目から読む
3/3ページ目

第一次政権のような連続醜聞

 安倍の求心力低下が印象付けられたのは21日のことだった。自民党の憲法改正推進本部の総会が全議員を対象に行われた。安倍は「九条の一、二項は残し、自衛隊を憲法に明記する改正憲法を2020年までに施行する」との方針を打ち出しているが、出席者からは異論が多く出た。特徴的だったのは、ある議員は戦力不保持などを規定した二項は削除すべきだと言い、別の議員は首相の方針はあまりに性急すぎるとの声をあげたこと。右からも左からも異論が噴出する様は、「安倍一強」と呼ばれるようになって以来、久しく見られなかったものだ。

 22日、「共謀罪」と「加計問題」で傷ついた安倍政権に、3本目の矢が飛んできた。自民党衆院議員・豊田真由子が秘書に暴言を吐き、暴力をふるう様子がこの日発売の「週刊新潮」で報じられたのだ。豊田は即座に離党届を提出したが、その後も「このハゲー。ちーがーうーだーろー!」の聞くに堪えない絶叫が、連日テレビから流れ続けた。

稲田朋美防衛相 ©文藝春秋

 27日、防衛相・稲田朋美が都議選の応援で自民党候補を「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と発言。自衛隊の政治利用と批判され野党の罷免要求に発展した。さらに29日発売の「週刊文春」が元文科相で自民党幹事長代行の下村博文を支援する政治団体「博友会」に、「加計学園から闇献金200万円」と報道。下村は釈明に追われるなど、第一次安倍政権の末期を思わせる連続醜聞に見舞われている。

ADVERTISEMENT

下村博文自民党幹事長代行 ©文藝春秋

 そして、安倍自身の健康問題までが浮上している。実は6月に入り、永田町では安倍の健康不安説がしきりに語られ始めていた。安倍は潰瘍性大腸炎という難病を抱え、それが原因で首相の座を手放したことから、今も健康不安説には最も神経をとがらせる。そのため首相周辺からは、必要以上に「総理は健康だ」と強調するような情報が流れだした。例えば13日夜、経産相・世耕弘成らと東京・赤坂の中華料理店「栄林」で会食したが、出席者の1人は「安倍は、久しぶりの中華で『うまい、うまい』と言って完食した」「赤ワインも白ワインもおおいに飲んだ」と記者団に強調。この種の話が流されれば流されるほど、疑心暗鬼になるのが永田町の習いだ。

 東京都議選期間中、唯一の日曜日だった25日、安倍は東京・富ヶ谷の私邸から一歩も外に出なかった。「やはり体調が悪い」という説と「逆風の安倍には選挙応援にお呼びがかからない」という観測が同時に流れた。

 翌26日は応援演説には出たが、不特定多数を相手にする街頭ではなく、支持者を集めた東京・文京区の小学校での演説会。だが、15分間の演説の半ば過ぎ、安倍が「印象操作のような質問が野党から出ると……」と語り出すと「印象操作ではない!」と厳しい野次が飛んだ。

 そんな中、安倍は人事で求心力を回復しようともくろんでいる。通常、内閣改造は党役員の任期がくる9月に行うが、一刻も早く効果を出すため8月に前倒しする案が取り沙汰される。

 今夏、新たに発足させる「みんなにチャンス!構想会議」の担当大臣に衆院議員・小泉進次郎を充てて話題を集める構想もある。小泉は、苦戦が予測された25日の横須賀市長選で、3選を目指す現職を倒して「小泉系」候補を当選させ、改めて人気を証明してみせた。ただ、副総理兼財務相の麻生太郎、官房長官・菅の留任を固めた以外は難題山積だ。続投に意欲を見せる幹事長・二階俊博はどうするか。来秋の総裁選出馬を目指す外相・岸田文雄をどう処遇するか。反主流派色を強める元幹事長・石破茂をはじめ、安倍の経済政策を批判的にみる「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」(脱アベノミクス勉強会)に参加した40人の扱いをどうするか。大量の初入閣待望組は……と悩みは尽きない。

 だが所詮、人事で求心力が働くのは断行まで。その後は処遇されなかった者が離反する危険が増す諸刃の剣だ。

「築城3年、落城1日」

 安倍は政権復帰後3年を経た16年の年頭所感で初めて引用したこの言葉を、最近、盛んに使うようになった。年頭所感の頃は、3年間で盤石な政権を完成させた自慢と自戒を綯交ぜにした文脈だったが、最近は「落城」への恐怖と警戒感のニュアンスばかりが強まっている。

(文中一部敬称略)