「拒まれたのでパソコンの押収は控えた」

 しかし、結果的に地検は、事務所が所有し、ゴーン元会長が使っていたパソコンの押収を諦めた。東京地検の斎藤隆博・次席検事は翌30日の記者会見で「パソコンの中のデータのうち、秘密と認められるものとそうでないものとに切り分けて提出を求めたが、拒まれたのでパソコンの押収は控えた」と説明したという。

ゴーン被告が無断出国後、夫妻でインタビュー応じる ©AFLO

 一方の弘中氏は捜索後、報道陣の取材に「事務所で(ゴーン元会長が)逃亡を謀議したことを裏付ける証拠はない。不愉快だ」と怒りをあらわにした。日本弁護士連合会も同31日、「検察官らが、裏口から法律事務所に侵入し、要請を受けても退去せず、法律事務所内のドアの鍵を破壊し、執務室内をビデオ撮影するなどしたことは、正当化の余地のない違法行為である」と抗議する会長談話を公表した。

検察関係者は「弘中氏よりもむしろ高野隆氏だ」

 結果的に押収物がなくとも、弁護人がガサ入れされるのは「恥辱」以外の何物でもない。法曹の中には今回の捜索は長年検察を苦しめてきた弘中氏への検察の意趣返しだと邪推する人もいるが、弘中氏に同情する声も聞こえてくる。

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 ある検察関係者は「ゴーンの逃亡について責任があるのは、弁護団の中で弘中氏よりもむしろ高野隆氏だ」と語る。

高野隆弁護士 ©AFLO

 高野氏も特に保釈問題に強い「刑事弁護のレジェンド」として知られるが、今回は弘中・高野という大物同士が組んだため、不協和音が生じていたと言われている。ゴーン元会長の「変装保釈」は高野氏のアイデアだが、弘中氏は知らされていなかったといい、他にも意思疎通がうまくいっていない場面があったという。
 
「弘中氏と違い、英語が話せる高野氏なら、ゴーンと面会していた外国人の会話内容も把握できた可能性がある。高野氏は本当に逃亡計画に感づけなかったのか」と疑う関係者もいる。