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【巨人】高橋由伸が地上波中継時代最後のスターならば、小林誠司はSNS時代のみんなで共有するスターである

文春野球コラム ペナントレース2017

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オールスター戦で“お祭り男コバちゃん”復活

「公式戦で打ってくれよっ!」

 その瞬間、ベンチの高橋由伸コーチ、放送席でゲスト出演していた坂本勇人、そして球場やSNS上のファンの気持ちがひとつになった。オールスター第2戦、セ・リーグ9番捕手でスタメン出場の小林誠司が豪快な一発をかっ飛ばしたのである。今季ペナントでは251打席ノーアーチの男が、球宴初打席の初球をレフトポール際に運ぶサプライズホームラン。

 全セのベンチでコントのようなオーバーリアクションで「WHYなぜに……」とうなだれてみせた由伸コーチは、夏休み中の少年のような爽やかスマイルを浮かべ帰って来た小林のヘルメットを笑いながら叩く手荒い祝福。ちょうどテレビ中継のゲストに呼ばれていたキャプテン坂本勇人も「シーズンで打ってほしいですよね」なんつって爆笑。この明るさこそ13連敗中の沈んだチームに欲しかったな……と思わずにはいられない、巨人ファンにとってはまさに夢の球宴となった。

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オールスター第二戦で本塁打を放った小林誠司 ©時事通信社

 春のWBCは初めての世界の舞台で危なっかしい送りバントに打率4割5分の大活躍で“バントのコバちゃん”旋風を巻き起こし、夢よ再び初体験のオールスターでいきなり敢闘選手賞を獲得。シーズン78試合で打率.190、0本塁打と極度の打撃不振を吹き飛ばす、お祭り男ぶりを発揮した。まるで普段の仕事ではミスを連発するのに、たまの会社行事の飲み会だと神業のような仕切りを見せる若手社員みたいなものだ。真夏のビアガーデンで同僚のOLさんを退屈させない完璧な働きぶり、っていやいやそのスキルは日常のクライアントに対して見せてくれよ的な愚痴をこぼしたくもなる憎めないヤツ。それこそ小林誠司という選手が持つ不思議な魅力である。

1軍レベルの20代捕手は小林だけという巨人のチーム事情

 現在リーグ4位に沈むチームの正捕手を務める背番号22。入団4年目の28歳、その非力な打撃や経験不足のリード面でどうしても批判されがち。正直、東京ドームで観戦していてもチャンスで下位打線に回ると期待よりも絶望感がデカいのは事実だ。だけど、その一方で今の巨人は小林どうこう以前にチーム編成そのものに問題があるようにも思う。

 頼みの阿部慎之助は満身創痍の身体と相談して完全に一塁手へ転向、相川亮二や実松一成も悲しいけど歳を取った。誰がどう見ても小林と打撃力のある捕手との併用プランがベストと言っても、驚くべきことに巨人ではこの3シーズン、小林以外で1軍の試合でマスクを被った20代捕手は1人もいない。その代わりはどこにもいないのである。さらにV3チームのひとつのサイクルが終わりつつあり、たとえ8番小林が打率.250、5本塁打を打とうが、前半戦終了時点で14.5ゲーム差をつけられている広島と優勝争いをできるとは到底思えない現実がそこにはある。

 それにしてもOB、マスコミ、ファン含めてこれほど議論が沸き起こる選手は今の球界で他にいないだろう。先日、ある巨人有名OBにインタビューに行った時も若手選手について聞くと「小林は俺がコーチならボロクソ言ってると思うよ。なんでインサイド投げないのって。スライダー、スライダーばっかでなんで首振らないのって。バッターの考えは外のスライダーしか待ってないんだから。あそこはみんな踏み込んでくるよ。踏み込まさないためにもインサイド投げなきゃ。打者に考えさせなきゃ。外一辺倒ならみんな打つよ、プロは」と真っ先に名指しで熱い檄を飛ばされていた。

 誰もがなにか一言、言いたくなるこの感じ。今の小林はプロ野球選手としてコンスタントに試合に出続け、賛否分かれる若手批評のステージに上がっている。10年近く前の坂本、最近で言ったらリーグ防御率トップの田口麗斗らは猛スピードでこのステージを卒業し、チームの主力へと定着していった。けど、小林の場合はプロ入り以来ずっと期待の若手と主力選手の間で行ったり来たりを繰り返す。今度こそイケる、やっぱり厳しいか、次回へ続く。みたいな終わりなき成長ドラマ。結果、背番号22から滲み出る放っておけない永遠の若手感。試合中はSNS上でも正捕手擁護派と否定派のファンの意見が飛び交い、時に盗塁阻止率.367の強肩で投手を救い、忘れた頃にヒットを打つとTwitterのタイムライン上はにぎわいを見せる。一昔前はよく「テレビ映えするスター選手」という褒め言葉があったが、小林の場合はなんだかやたらと「SNS映えする選手」なのである。

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