日本人に元気がない、我が国の先行きに不安を感じ、暗く未来に希望のない社会にストレスを感じている……。そんな大きなテーマが我が国に横たわっています。昨日より良い明日を送るために今日を頑張るという気持ちがあってこそ、活力ある社会と平穏で実りのある人生とが期待できるのは間違いありません。

人口減少、景気伸び悩み……ポストアベノミクスと日本社会の限界点

©山元茂樹/文藝春秋

 そういう日本社会の中でいま一番求められているものは、まさに右肩上がり、そのまま上昇気流に乗って大気圏すら突破しかねない燃え盛るパ・リーグの魂ではないでしょうか。眼あらば見よ、耳あらば聞け。日本に残された数少ない希望は、戦後営々と築き上げられてきたパ・リーグにこそ残されているのです。

 中でも、世界各国20億人を沸かせてパ・リーグ中興の祖と言われた逸材について語らないわけにはいきません。その名もミスターマリーンズ、パ・リーグを育て上げ、その神々しい精神性を金色の神秘のオーラにまで昇華させた男、初芝清、その人であります。

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 敢えて初芝の来歴を説明するまでもないでしょう。ベストナイン、打点王という輝かしいタイトルホルダーであるだけでなく、ストッキングを膝まで上げる絶妙な田吾作スタイルに支えられた太ましい豊満なわがままボディ、球界業師の伝統を受け継ぐ渋い眼鏡、そして鈍足右打者。そのひたすら勝負強いファンタジスタ性を全身から溢れんばかりに滾らせて球場全体を魅了する初芝ですが、並み居る名選手たちをかきわけ真ん中に押し入る勢いで積み上げた併殺打は168個。この打点を挙げるか遊ゴロ併殺打を放つかという際どい打席のギャンブル感がたまらないのです。

 幕張までロッテ戦を見物に行った私は、3番堀、4番初芝、5番平井という得点する気力のないクリーンアップに、先発が中5日の園川一美という球場いっぱいにロッテの魅力を詰め込んだような一戦に巡り合ったわけですよ。園川は5回途中4失点でマウンドを降りそのまま無事負け投手になる一方、唯一盛り上がった6回無死一、二塁も堀がサードフライ、初芝が芸術的な6-4-3の併殺打。このやっちまった感。天を仰ぎながら一塁キャンバスを走り抜ける初芝を見て一塁スタンドが野次ではなく爆笑で沸くという素敵なロッテ空間が満喫できたわけです。

 そうかと思えば、0対7で完封目前の日本ハム西崎の前に9回2アウトから打席に入った初芝。ふらふらと打ち上げたライトフライが川崎球場特有の風に乗せられてホームランになってしまい、球場が爆笑に包まれるという事例も存在しました。振り返って呆然とする西崎。なお試合は1-7で日本ハムが勝ちました。

 そう、世の中を明るくする原点は、この「どういうプレイであっても、いかなる結果でも、ファンはそこにいる初芝をただただ喜ぶ」姿勢です。初芝なら何でもいいのです。ここに日本社会に久しく失われてきた精神の成熟があるように思うのです。