睡眠不足は認知症のリスクを高める
睡眠の役割として、ここ数年でわかってきたことのなかに、脳の老廃物を流すグリンパティック・システムがあります。
体のなかの老廃物は、リンパ系に集められ、血管を通って尿として体外に排出されます。しかし、脳にはリンパ系がありません。体のなかでもっとも活発な臓器である脳の老廃物は、グリア細胞の表面に水を取り込む仕組み(ウォーターチャンネル)で洗い流しています。これが、グリンパティック・システム。覚醒しているときも老廃物の除去作業は行われていますが、睡眠中のほうが4~10倍も活発に行われています。
たとえば、プロ野球で使用する球場で、飲んだり食べたりして出たゴミを試合中に掃除するとなると、観客がたくさんいるため、なかなかスムーズには行えません。しかし、試合が終わって観客がいなくなってからなら効率的に掃除できます。しかも、観客の足元に隠れていたゴミなども拾えて、試合中のときよりきれいに掃除できます。睡眠中に老廃物の除去が活発になるのは、それと同じような仕組みなのかもしれません。
睡眠不足になると、老廃物の除去作業が滞り、脳にゴミが残ることになります。脳のゴミとも言われるアミロイドβなどの老廃物が残ると、アルツハイマー病などの認知症や神経疾患のリスクを高めることになります。
まとめてが無理なら「分割睡眠」を
日本人の睡眠不足を端的に示す例として挙げられるのが、電車のなかでの居眠りではないでしょうか。日本を訪れた海外の人が驚く光景のひとつだそうです。
電車のなかでの居眠りは睡眠によくないという人がいます。特に、夕方過ぎの帰りの電車では寝てはいけないと指摘されています。
たしかに、夕方過ぎに寝てしまうと夜の睡眠に影響を与える可能性はあります。眠くなるのは睡眠圧が上がってきているからで、居眠りすれば睡眠圧が解放されてすっきりします。しかし、夕方に睡眠圧を解放すると、肝心の夜に睡眠圧が上がってこないことになり、入眠しづらくなるのは当然のことでしょう。
ただわたしは、電車での居眠りくらいしてもいいのではないかと思っています。そもそも、電車で眠くなるのは、睡眠圧が溜まってきているからであって、体が睡眠を欲しているからです。そんなときに、帰りの電車で座席が空いたら座るでしょうし、眠ってしまうでしょう。
体が睡眠を欲しているなら、やはり寝るべきです。まとまった睡眠時間が取れないなら、なおさら眠ることをおすすめします。
二度寝もまた、体が睡眠を欲している現象のひとつです。
二度寝には、だらしないとか、緊張感が足りないとかというイメージがありますが、二度寝が問題なのは、それを体が求めるふだんの睡眠状態なのです。
十分な睡眠が取れていれば、朝二度寝することはないでしょうし、目覚ましひとつですぐにすっきり目覚めることができるでしょう。スッと起きられずにまた寝てしまうのは、それだけ体が睡眠を欲しているということにほかなりません。
まとまった睡眠時間が取れないなら、電車のなかの居眠りや二度寝のように、分割して取るのもいいと考えています。