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「長官を攻める私でも、夫婦ゲンカは受け身です」東京新聞・望月衣塑子記者インタビュー#2

2017/08/12
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うちはわりと政治部と社会部の垣根が低いんです

――会見に参加している他社の記者たちの印象はいかがですか?

望月 一時期、朝日新聞の社会部記者さんは来られていましたが、常時はいないですね。いま、朝日新聞の元官邸番の南彰記者がよく来られています。私よりずっと論理的に攻め、練り込まれた質問をぶつけ、よい回答を菅さんから引き出していていて、すごいなと感心します。ジャパンタイムズの吉田玲滋記者も鋭い質問を浴びせていますね。

 毎日新聞はすごく加計問題を扱っていますが、社会部の記者の方は来ていないです。それぞれの取材が忙しいというのもありますし、政治部の敷居が高くて入れないというのもあるのかもしれません。社によっては、政治部と社会部がかなりケンカしているとも聞きますので。

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愛用のペンケースと取材ノート

――東京新聞の社内的には、望月さんの活動を後押ししているような感じなのですか?

望月 うちはわりと政治部と社会部の垣根が低いんです。「質問しにいっていいですか?」って聞いたら、「いいよ」と。でも、こんなことになるとは思っていなかったと思います。ご迷惑も多々かけていると思いますが、これだけ官邸や政権が、国民に対して、隠し事や改ざんまがいのことを続けている限りは、疑念をぶつけないわけにはいきません。読者の方から数多くの応援メッセージが来たり、購読者が増えたり、会社にとっても良い面もあるようで、批判があっても「頑張ってこい!」と背中を押してくれるのはとても有り難いことで、会社には大変感謝しています。

いつも警察の先を行っちゃう清水潔さんは神

――ところで、記者として望月さんが尊敬される方はどなたかいらっしゃいますか?

望月 清水潔さんのすごさは別次元ですね。私たちは事件を追っていても、先に警察の捜査があって、そこにたどり着くのがやっとですが、清水さんは足利事件にしても、桶川ストーカー殺人事件にしても、先に自分で取材して犯人を特定してしまいますからね。事件屋からすると、神様みたいな存在ですよ。いつも警察の先を行っちゃっている(笑)。文筆家の菅野完さんの戦後を総括して、現代の日本の形を切り取ろうとしている姿勢にも、同世代なのにまねできないすごさを感じています。

 

――望月さんが記者を目指した理由はどんなものなのでしょうか?

望月 中学の頃、吉田ルイ子さんという元朝日放送のアナウンサーでジャーナリストの方が南アフリカのアパルトヘイト政策について書かれた本を読んで衝撃を受けたのがきっかけですね。世界を股にかけて、問題をあぶり出していくような生き方に憧れました。

 あと、父が業界紙の記者だったんです。いろいろな人に会って話を聞き、今の状況を見ていくという記者の仕事は面白いよ、という父のサジェスチョンの影響も大きかったと思います。

――記者の仕事に加えて、世の中を良くしていきたいという思いがあったのですか?

望月 世の中を変えていくというより、社会福祉が行き届かない人たちや、行政の狭間に追い込まれてしまった人たちの問題を自分で取り上げたいという思いはありました。東京新聞に入社するときの志望動機に「山谷の問題を書きたい」と書いた記憶があります。