7月21日、「聖職者からパワハラを受けてPTSDを発症した」として、カトリック長崎大司教区で働く50代の女性職員が長崎労働基準監督署に労災申請をすることを報道各社が一斉に報じた。この女性職員は今年6月末から休職中だ。
長崎大司教区で何があったのか。前代未聞の不祥事が明るみに出る発端となった、ノンフィクション作家・広野真嗣氏による6月26日の記事を再公開する。(全2回の1回目/後編に続く)
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6月21日、「カトリック神父による性虐待を許さない会」が発足した。1年前、月刊「文藝春秋」(19年3月号)で一人の男性が幼少期に神父に強いられた性的虐待を実名で告発したのをきっかけに、各地で被害者が沈黙を破り始めたのだ。彼ら、彼女らは本格的な被害者支援はおろか実態調査にさえ動き出さない日本のカトリック教会に、憤りを強めている。
この日、長崎市内で開かれた緊急集会で、長崎大司教区(教区長・高見三明大司教)の神父から長時間にわたって胸をもまれるわいせつ行為の被害に遭った50代の女性信徒が、こんな言葉を口にした。
「大司教区は教団の中で唯一、私に寄り添って“命綱”になってくれている職員を教会から追い出そうとしている」
本来は傷ついて癒しを求める者に手を差し伸べるのがキリスト教会の役割のはずだ。だが神父の過ちに触れる時、長崎大司教区はその逆で、厄介者を排除する――。その行動の背景を探っていくと、億単位の信徒からの献金を1人の神父が詐欺的投資に投じて消失させていた。聖職者たちは教会を私物化し、保身のためには信徒を傷つける、およそキリスト教の教えとは無縁の体質に成り果てていた。
司祭研修会で起きた「魔女狩り」
きっかけは、2019年2月4日、原爆投下の爆心地に近い浦上にある大司教館の会議室で開かれた、司祭研修会と題した会議でのことだった。
「わがの思い通りになると思うなよ」
広い会議室の前列から荒っぽい長崎弁を浴びせたのは、やくざではなく、黒い立ち襟の祭服に身を包んだ約150人の神父のうちの1人だった。矛先を向けられた50代の女性職員は、強張った顔のまま下を向いていたという。女性職員は大司教区が設置する「子どもと女性の人権相談室」の室長。“吊し上げ”の一部始終を見ていた神父の一人は、「あれは魔女狩りでした」と振り返った。
日本の“カトリック教会トップ”の足元で……
長崎は、大航海時代にキリスト宣教の拠点となった歴史を持つ。人口に占める信徒の割合が4%と他の教区より1桁多い長崎では、どの町にもカトリック教会が建っている。
03年、当時の教皇ヨハネ・パウロ2世からヒエラルキーの頂点に立つ大司教に任命された高見三明氏(74)は、16年からは国内16の教区(それぞれが独立の宗教法人)を束ねる包括宗教法人「カトリック中央協議会」(東京都江東区)のトップ、司教協議会会長も務める。昨年、教皇フランシスコが長崎を訪問した際は案内役を担った。
なぜ日本のカトリック教会のトップに立つ高見氏の足元でパワハラが起こるのか。
「その原因はお金の話だった」と証言するのは別の大司教区関係者だ。