「寝具難民」を救いたい
山田医師はまず、睡眠中の「姿勢」に着目した。
「姿勢に関しての従来の医学は、座っている時や、歩く時など“起きている時の姿勢”に対する指導に終始していました。でも、人は人生の四分の一を寝て過ごしています。その間は自分ではどうすることもできません。ならば寝ている間は寝具の力を借りて、理想的な姿勢を取るしかない、と考えたのです」
特に「寝返り」は重要だという。
「じっと動かずに寝ていると、全身の血流が停滞してしまいがちですが、適度に寝返りを打つことで血行がよくなる。また、寝返りは睡眠中に不可欠な生理現象で、一晩に20〜30回程度の寝返りを、ぐっすり眠ったまま打てるのが理想的とされています。この寝返りを打つ際に最も重要な役割を担うのが枕なのです」
山田医師は、体に合っていない寝具が原因で不調を感じている人を「寝具難民」と呼ぶ。自身が診てきただけでもその数は六万人に及ぶという。寝具の中でも枕の重要性は高く、これを改善するだけで長年の不定愁訴(「頭が重い」「イライラする」などの症状はあるが、画像検査や血液検査では明確な原因が分からない状態)がきれいに消える例を数多く見てきたという。
「寝具難民」に最も多いのは50歳以上の女性。症状としては「肩こり」「肩や首の痛み」「手のしびれ」「頭痛」などで、朝起きた瞬間から症状が出ているケースがよく見られる。
特に「頭痛」の場合、いきなり整形外科を受診することはないので、脳神経外科や神経内科などに行き、画像診断をしても問題が見つからず、まわりまわって山田医師の外来にたどり着くことになる。こうした症状で何年ものあいだ苦しんでいた人が、枕を調整しただけで翌朝から症状が消失してしまうのは決して珍しいことではないそうだ。