「最近の若い者は……」紀元前の哲学者プラトンから現代のサラリーマンまで、あらゆる時代、あらゆる場所で何度繰り返されたかわからない定番の決まり文句がある。いつの時代も若者は旧世代では受け入れがたい思考・行動をするものなのだ。
ここでは、そんな“若者”についての研究を20年以上にわたって続ける原田陽平氏の著書『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』より新たな感性を持った世代、“Z世代”の特徴について紹介する。
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「chill(チル)」という価値観
少なくともこれまでのZ世代は、進学、バイト、就活、転職と、「ゆとり世代」と比べると、不安や競争の少ない生活を送ってきたので、彼らは「chill(チル)」という価値観を持つようになりました。
「チル」とは、元々はアメリカのラッパーたちのスラングで、「chill out」の略です。日本語では「まったりする」という言葉が近いニュアンスだと思います。
Z世代に人気の、自身もZ世代であるラッパーの空音やRin音が、上の世代のラッパーと違い、ダウンテンポのラップを歌っていることも、同じくZ世代に人気のYouTuberであるEvisJap(えびすじゃっぷ)が、andchill(アンドチル)というネーミングのアパレルを立ち上げたことも、Z世代の「チル」という感覚を象徴しています。
私があるZ世代に電話し、飲みに誘おうと「今、何してる?」と聞いた時に、「今っすか? 今、自分の部屋でネフリでチルってます(ネットフリックスを見ながらまったりしています)」という返事をされたことがありますが、例えば、このように使うようです。
私が日頃からたくさんのZ世代と接する中でも、チルっている人が多いと感じます。チルっているということは、マイペースに居心地よく過ごすということであり、会社などの組織の論理で彼らを動かそうとすることが、本当に難しくなっていることを意味します。
「ゆとり世代」との違い
20年以上もの長い間、若者研究を続けている私の感覚では、第一次就職氷河期の余韻が残り、第二次就職氷河期世代もいた「ゆとり世代」が学生だった頃は、私の研究を手伝ってくれている彼らにやる気を出させるために「こんなこともできないと、どこにも就職できないよ」などと、就活不安につけ込んだ「危機感訴求」をすると、それが大変効果的で、彼らの目の色が変わっていました。
ところが、逆求人サイトが全盛の、超人手不足の時代を生きてきたZ世代には、この「危機感訴求」はあまり効かなくなっています。
なぜなら、「原田さんは、そんなことじゃ就職できないというけど、ゼミのアホな先輩は結構いいところに就職できているけどなあ」という反論がすぐに彼らの頭に浮かんでしまうほど、時代が超売り手市場になったからです。