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偶然出会った麻原の著書

 ──御家族と最初に接見したときは?

「泣いてばかりだったと聞いています。私は行きませんでしたが」

 ──事件のことは話しましたか?

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「私が腫れ物に触るように考えて、気持ちよう接見したいなと、話してません」

 ──裁判の傍聴は?

「1回くらい傍聴に行ってもいいやろが、なんでや聞いても同じことやから……」

 ──豊田くんは、なんで事件のことを話さないのですか?

「よくわかりませんが、自分が犯した罪は、自分で償うんやから、そこまで家族を心配させたくないという考えが、本人の中にあったんか、そう思いますが」

 豊田は、86年の春に大学の入学手続きの為に上京し、東京駅の地下の書店で偶然、麻原の著作が目に止まった。『超能力「秘密の開発法」』とあった本のタイトルは、豊田ばかりでなく、当時の多くの若者の心を惹き付けていった。超能力の存在と、変貌への憧れ。頂点を極め、やがて訪れる時代の閉塞感への準備。世界が変わらないのなら、こちらが変わる。そこに新しい世界を見つけることへの理想。

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 そんなことを前世代の親たちは気付かずにいた。右肩上がりの戦後経済をひた走り、たどり着いたそこがゴールであると信じた。これが幸福なのだと時代を謳歌した。

 そして、豊田は教団の道場に通い続け、ある時、呼び出された教祖から一言あった。

「来るべき時が、来たのではないか」

 この言葉から、数人の出家信者に説得されて、教団に出家したのだった。それほど、強固な抵抗もなかった。

私が見た21の死刑判決 (文春新書)

青沼 陽一郎

文藝春秋

2009年7月20日 発売