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《大阪に残る“さいごの色街”》飛田新地に行った男の告白「日本に江戸時代が残っていた」「おねえさんは白い襦袢に着替えて……」

《大阪に残る“さいごの色街”》飛田新地に行った男の告白「日本に江戸時代が残っていた」「おねえさんは白い襦袢に着替えて……」

「さいごの色街 飛田」#1

2021/01/02
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 そこまでいくと、商談成立となり靴を脱いで上がる確率60%、不成立40%くらいだろうか。ネクタイもノーネクタイも、作業衣にズック靴の男もいる。

 通りをぐるぐると歩き回っているのは、アタッシュケースを持った銀行員風2人づれだ。尾行してみる。

「もうちょっと向こうまで行ってみようか」

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「うん、いっぱい見てから決めよ」

 決めるって、モノじゃないよ生身の人間なんだよ。と言ってやりたいが、ぐっと我慢してテキの尾行を続ける。

飛田新地 撮影/黒住周作

「にいちゃん、にいちゃん……」

 と、曳き手おばさんから声がかかれど、彼らはなかなか入らない。でも、明らかに物色している。さすが銀行員、慎重なのか。2人一緒に10分近く歩き回った末、1人ずつ別々の店に吸い込まれていった。

ネクタイに作業服……飛田を行き交う”普通の男たち”

 なんとまあ、と私は思う。今どき、こんなところに来るのは、特殊な男だと思っていたのに、そうではなかった。いかにも恋人いません、独身です、相手がいなくて困っていますといった雰囲気の男などほとんどいない。相当な年配者や遊び人風がちらほら混ざっているものの、ほとんどは「教育費と住宅ローンかかえています」と顔に書いたような一般サラリーマンふう。そう、普通の男たちが往来しているのが飛田なのだ。

 とすると、私の周りの普通の男たちも、飛田のお客である可能性も高い。私はあの町で見た男たちの姿を知人に置き換えてみる。

 行きつ戻りつ歩いていた男は、ライター仲間のS君を彷佛させる。ハタチのおねえさんのところに入っていった男は、広告代理店のUさん風。あの銀行員風2人づれの1人は、ご近所のKさんのおつれあいにさも似たり。遊び人風ベルサーチ男は、建築家のOさんを思い起こす。

 つまり、仮に私の知り合いが飛田のお客だとしても、なんら不思議でないということだ。ならば、まず、そういう人を見つけだして聞いてみようと思った。女の客は上がれない「料亭」の中がどんな造りなのか、どんなシステムなのか、実際のところ料金はいくらなのかも聞きたい。

飛田新地 撮影/黒住周作

 聞きやすそうな男友達に次々と声をかけた。会う機会のない人にはメールをした。

「飛田の取材をしているんだけど、誰かあなたの知り合いで、飛田で遊んだことのある人知らない? 匿名でいいから、経験談を聞かせてくれる人を紹介して」と。

「あなた」は飛田で遊んだことがあるかとは聞かずに「あなたの知り合い」のことを聞くことにしたのは、親しき仲にも礼儀ありと思ったからだが、面白いことに、男友達たちは訊かれてもいないのに、まず「僕は」を語りだした。