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連載昭和事件史

《与党幹事長逮捕直前の激震》“検察の歴史の汚点”はなぜ生まれてしまったのか

《与党幹事長逮捕直前の激震》“検察の歴史の汚点”はなぜ生まれてしまったのか

たどり着けなかった“政治とカネ”の真相 「造船疑獄」事件 #2

2021/05/05
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 検察庁法第14条は「法務大臣は、第4条(検察官の職務権限)及び第6条(犯罪の捜査)に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。ただし、個々の事件の取調、または処分については、検事総長のみを指揮することができる」と規定されている。

法相の指揮権発動を受けた佐藤藤佐検事総長(「決定版昭和史」より)

 同じ朝日1面には平野龍一・東大助教授(のち教授)の「逮捕も引延ばせる 結局は政党内閣良識の問題」という長い談話が載っている。指揮権発動は適当とし、「法務大臣があくまで命令するのであれば検事総長としてはこれに従って担当の検事に命ずるほかはない。そしてそのことの当否は国会で批判されるであろう」と述べている。ただ、この時点では新聞全体として国会開会中の逮捕は不可能という理解にとどまっていた。

識者の多くは指揮権発動に批判的だった(朝日)

「日本の検察の歴史に一大汚点を残した」

 4月21日午後、犬養法相は正式に逮捕請求の延期を指示。その理由を談話として発表した。同日付朝日夕刊によると

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事件の法律的性格と重要法案の審議の現状に鑑みて、本件は特別例外的事情にあるものと認め、国際的、国内的法案通過の見通しのつくまで暫時、逮捕請求を延期し任意捜査を継続すべき旨を指示した。

 野党は、松村改進党書記長が「先例なき暴挙」との談話を出すなど、一斉に批判。同日付夕刊で読売は「国民の疑惑深まる」の見出しの解説で「この伝家の宝刀は、検察行政が不正、不当に行われたときに初めて発動すべきもので、今回のような指揮権発動は法的にも幾多の疑義を残し、日本の検察の歴史に一大汚点を残したものとの評が高い」と述べた。

「伝家の宝刀」指揮権を発動した犬養法相(「決定版昭和史」より)

「ジュリスト」1954年5月号の座談会で團藤重光・東大教授(のち最高裁判事)もこう指摘した。「形式的には今度の法務大臣の指揮も、法律的には不適法だ無効だ、ということではない。有効であり適法であると思います。けれども、実質的には、それは明らかに妥当ではない。あるいは、もう少し強く言えば違法なのであって……」。佐藤検事総長は「指揮権発動は遺憾」としながらも、「既定方針に基づき任意捜査を極力続けたい」(4月21日朝日夕刊)と語った。

 しかし、「戦後政治裁判史録」はこう書いている。

「贈収賄事件の捜査では、贈賄側と収賄側を同時に身柄拘束し、供述証拠を得なければ起訴に持ち込むのは難しい。それだけに指揮権発動は事実上の捜査中止命令に等しく、100日以上にわたって積み上げられた検察の捜査は、この段階から急速に終結の方向をたどった」