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いまもどこかで…?

 かつて「ミスター検察」と呼ばれた伊藤栄樹・元検事総長は著書「新版検察庁法逐条解説」の中でこう述べている。「いわゆる指揮権発動は昭和29年(1954年)、いわゆる造船汚職事件に関して行われたそれが最も有名であり、また、一般にはそれが唯一の例であるかのようにいわれているが、必ずしもそうではない」。

 同書によれば、定められた処分請訓規定によって、検事総長から具体的事件について法相に請訓が行われ、これにこたえて法相が指揮することになっている。また、国会開会中の国会議員逮捕のような、将来政治問題化するような事件については、国会における検察権の代表者である法相に、折に触れて積極的に報告を行うものと考えるが、その際、特に法相の指揮を仰ぐこともあり得ると考えられるという。「国民の知り得ないところで指揮権が発動されていることを認めているわけである」と、同書を引用した1981年刊行の「汚職の構造」は書いている。

 政権交代のない一党独裁体制が続くと、正常な議会制民主主義の運営が行われなくなり、それは検察権の行使にもどこかで反映する。造船疑獄以後、国会議員が関係する汚職事件は数件あるが、ロッキード事件を除いて、刑事訴追を受けたのは権力中枢から遠い政治家に限られていると「汚職の構造」は言う。

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「政権中枢、あるいは政権与党主流派・有力者などが関係しているとして国会でも追及された汚職容疑・疑惑事件はことごとく立件されず、闇から闇に消えてしまっている」。そこではひそかに「指揮権発動」が行われていたのかもしれない。最近の「政治とカネ」にまつわる問題を考えれば、造船疑獄は70年近く前の事件と片付けられなくなってくる。

【参考文献】
▽「別冊1億人の昭和史 昭和史事典」 毎日新聞社 1980年
▽室伏哲郎「汚職の構造」 岩波新書 1981年
▽松本清張「二大疑獄事件」=「日本の黒い霧 上」(文春文庫、1974年)所収)
▽読売新聞社会部編「捜査 汚職をあばく」 有紀書房 1957年
▽渡邉文幸「指揮権発動」 信山社 2005年
▽田中二郎・佐藤功・野村二郎編「戦後政治裁判史録」 第一法規出版 1980年
▽戸川猪左武「素顔の昭和 戦後」 角川文庫 1982年
▽岸信介「岸信介回顧録」 廣済堂 1983年
▽「日本近現代史辞典」 東洋経済新報社 1978年
▽佐藤栄作「佐藤栄作日記第一巻」 朝日新聞社 1998年、
▽三好徹「評伝緒方竹虎」 岩波書店 1988年
▽「岸本義廣追想録」 1971年
▽伊藤栄樹「新版検察庁法逐条解説」 良書普及会 1986年

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