介助を受けているときの感覚はどこかダンスに似ている
――映画のなかで、たとえば電動車椅子にカメラを固定したり、同じ高さに設置したり、ということはほぼなかったですよね。それが少し意外に感じたのですが。
石田 やっぱりこの作品が、僕が見た世界というより、僕と、スタッフである本田さん、藤原さんとの3人で見えた世界ってことなんだと思います。2人が僕の思いや考えをどう受け取って映像にし、それを僕がどう編集して、作ったのか。映画作りを通して全員がどう変わっていったのか。それを映すためには、僕の主観としての世界で捉えないほうがいいんだろうなと。それは編集をしながら分かっていったことです。実際、僕の主観ショットも撮ってはいたんですけど、結果的にほぼ使いませんでした。唯一使っているのは電動車椅子の操縦レバーを押すところ、あれだけは車椅子に固定して撮影しました。
――石田監督が、砂連尾さんの演出するカフカの『変身』をモチーフにした舞台に出演することで、映画の方向性がまた大きく変わるわけですが、監督自身にとってもあの舞台は大きな出来事でしたか。
石田 そうですね。床に降りて身体を動かす姿を見てもらう。あの経験はすごく大きかったです。自分の身体が温まり、可動域が段々と広がっていく。それは普段、行っている理学療法での動きとは全く別のもの。これがパフォーマンスの力による変化なのかと驚きました。映画のラストではまた別のダンスをみんなで踊るんですが、舞台での経験がなければこのシーンは生まれなかったはずです。
――あのダンスがあったからこそ、見ている側も、他の方々の身体の動きにも目がいくようになり、結果的に『へんしんっ!』が身体の映画になっていくきっかけにもなったと思います。
石田 以前から、介助を受けるときの感覚はどこかダンスに似ているなと感じていたんです。自分の身体の可動域も、あるいは介助者の力の掛け方も、日によって全然違うので。砂連尾さんが、自分の介助の仕方をまとめた冊子を見て、「ダンスのデュオみたいだね」と言ってくれたのが嬉しかった。今回、砂連尾さんに被写体として参加してもらったのは本当にありがたかったですね。