著者は理科教育、科学コミュニケーションの専門家。著作も多数。本書はその長いキャリアで、最大のヒット作になった。
「化学の本は、同じ理系の生物学や物理学と比べて、部数がなかなか伸びません。多くの人に読まれる本を作ろうと意図して、教養本のジャンルの中でも多くの読者がいる歴史と組み合わせることを考えたんです。『銃・病原菌・鉄』や『サピエンス全史』といった人類史のベストセラーの存在も意識しました」(担当編集者の田畑博文さん)
古代ギリシアにまで遡り、化学の基礎にある思想を解説し、そこから火やガラス、プラスチック、火薬、原子力などの発見・発明が歴史をどう動かしたかを探る。文系でも楽しく読み進められる構成だ。
「化学者たちがどのような思いで努力し、技術のもたらす功罪に対してどんな葛藤を抱いてきたかを、なるべく具体的に書いていただきました。人間の姿を絡めることで、化学を身近に感じてもらいたかったんです。人類が感染症のような大きな問題に向き合うには、理系の知見はもちろん、歴史や文学、心理学の視点も重要です。世の中を俯瞰して理解するには、人文知と科学知の両方が必要だと、現在のコロナ禍で多くの人が実感していることが、本書の好調な売れ行きに結びついた印象を受けています」(田畑さん)
2021年2月発売。初版8500部。現在5刷7万部(電子含む)