――松田さんは『ブライトン・ビーチ回顧録』を機に、舞台にも打ち込むようになったんですか?
松田 現在にいたるまで、僕が演劇に取り組むきっかけにもなった作品です。もともと演劇には無関心だったんですよ。当時は僕の人生のなかで最も売れていて、ドラマなどの映像作品の仕事で忙しく、演劇に目を向ける余裕もなかったし、なんだか大変そうだな、みたいなイメージしかなかった。
ところがある日の夕方に家にいたら、事務所の社長から電話がかかってきました。ある俳優さんが急遽降板した舞台があって、いい役だからどうだと。僕が「ニール・サイモン(※)の『ブライトン・ビーチ回顧録』?」とオウム返し状態で社長とやり取りしていたら、横で聞いていた兄が受話器をもぎ取って「やらせます!」と僕に代わって返事しちゃって。
(※)劇作家・脚本家。戯曲『おかしな二人』(65)、映画『名探偵登場』シリーズ(76〜78)や『グッバイガール』(77)など。
――お兄さまの直行さんは、駒澤大学で教授をされていますよね。
松田 そうです。ミュージカルの翻訳や訳詞をやっています。兄は早稲田の一文で演劇を学んで、ニューヨークに留学し、ちょうど帰ってきたところでした。オファーがあった前年に兄がニューヨークで『ブライトン・ビーチ回顧録』を観ていたので、とても素晴らしい舞台だったと熱弁されました。受話器を置くなり、「お前は絶対にやるべきだ。普通だったらとても役が回ってくるような作品じゃない。やれ!」と言われて、やることになったんです。
――2006年から東京アニメーションカレッジ専門学校で舞台演出の講師をされていますが、演劇での経験を活かした授業をされているのですか?
松田 教えているというより、演出している感じです。声優科の生徒たちと一緒に卒業公演の芝居を作るんですよ。声優も俳優ですから、演技の基礎を学んでほしいので。F1ドライバーを目指すにしても、まず普通免許を取ってからという話ですね。
声優を目指す若い人は「80点の子が多い」
――若い人たちと向き合ってみて、いかがですか?
松田 「声優になりたいのに、なんでお芝居(舞台)の勉強しなきゃいけないの」という子は少ないですね。今の学生は声優さんたちが舞台もやっているということをちゃんと知っているので、舞台演技を学ぶ重要性をちゃんとわかっています。ただ、真面目ですけど80点の子が多いですね。自分がない。自分の頭で考えるということがどんどん減ってきている。だから、はみ出もしないし、拒絶もしない。
学校で学んでいる間は、プロになるためにはこういうことを学ばなきゃいけないと真面目に取り組んで真剣に考えている。でも、学校を出て声優になったとして、どう生き残っていくのかが重要なんですよね。そこに気づき、それを見据えて、生き残るために必要なものは何かを考えてほしいですね。
――9月4日からKAAT神奈川芸術劇場で公演される『近松心中物語』に出演されますが、どういった役を演じられるのでしょうか。
松田 蜷川幸雄さんの演出で有名だった芝居で、85人くらい出てくるんですよ。それを今回は19人の役者でやると。男女の心中を描いた話なのでカップル2組が4人、敵役が1人で5人。この5人以外の80人を残りの14人で演じるので大変ですね。
――田中哲司さん、松田龍平さん、笹本玲奈さん、石橋静河さんと豪華なキャストですが、『家族ゲームII』でご一緒されていた石倉三郎さんも出演されるんですよね。
松田 ほんと、あれ以来ですよ。「何年ぶりだよ。洋治、お前いくつになったんだ」「53です」「53かぁ。そんなに経つのか」なんて話しましたけどね。
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