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「幼虫を食え」凄惨を極めた、刑務所内のいじめ

ーーもちろん、意地悪というかいじめもあるわけですよね。

後藤 はい。いじめは“ひっつき”と呼ばれていて、トイレ用のブラシで歯を磨けとか、施設内の除草作業で見つけたカブトムシの幼虫を食べろとか、部屋長の精液を掛けたご飯を食べろとか、本当にあるんですよ。

 刑務官って、何分に1回は巡視しなきゃいけないという規則があるんですけど、あまり守られていない。そうやって刑務官が見ていないすきを狙って“ひっつき”をやるんです。僕も“水飲み”をやらされました。ヤカンに入った水をひたすら飲まされるんですよ。

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ーートイレには行かせてもらえるんですか。漏らしちゃったり、吐いたりする気が。

後藤 行かせてもらえますけど、刑務所って室内の壁がコンクリートむき出しなんですよ。だから、夏は凄まじい暑さだし、冬はものすごく寒くて室内の温度が3度とかなんです。耳はしもやけになって血まみれになっちゃうし、腕も真紫になってクリームパンみたいに腫れちゃう。

 

 そういう真冬の環境でやらされて、水を飲めば飲むほど体がどんどん冷えていくし、そんなに飲めないから便器で吐いて。そのうちに震えが止まらなくなって、唇も紫になっちゃって大変でした。

ーー部屋長が変わったり、房を移動すれば、とりあえず“ひっつき”からは解放されるのですか?

後藤 刑務所は生産工場と経理工場に分けられていて、房を移動するというのは工場も移動することになるんですね。工場ごとに房も分けられているので。

 たとえば、いまいる工場で「いじめられました」と言って別の工場に移ったとしても、必ず“鳩を飛ばす(受刑者同士で連絡すること)”人間がいるので、「こいつはいじめされて逃げてきたヤツ」というのがバレちゃってるんです。そうなると、またそこでもいじめられる。

ーーしかし、“鳩を飛ばす”のって容易ではなさそうですけど。

後藤 刑務所ではクラブ活動があるんです。週に何回か、漢字クラブとか書道クラブとかいろんなクラブがあるんですけど、そこでいろんな工場の人と会ったりとか。

 あと、僕らが暮らす建物は舎房と言われるんですけど、そこで配膳する人は他の工場の人たちとかとも会ったりするので、そこで「何々工場の何々さんに伝えておいてください」みたいに伝言を頼まれて、配膳の時に伝えるという。本当、『プリズン・ブレイク』みたいな。

 

いじめに対抗するために考えた「ある作戦」

ーー自伝『懺悔』(ミリオン出版)では、後藤さんがいじめられている方と組んで、いじめを首謀していた先輩を工場から追い出した話も強烈なインパクトがありました。いじめられていた方が奇声をあげて刑務官を呼んで、「先輩に殴られました」と嘘をつくという作戦。これでその方も先輩も移動になったという。

後藤 あれは、けっこういろいろ考えてやりました。刑務所の懲罰って、いろんな種類と期間があるんですけど、それに「就業拒否をしてはならない」というのがあるんです。

 たとえいじめられているという理由があっても、刑務作業をやりたくない、この工場から出たいと言うと就業拒否に当たる。自分から就業を拒んだとして懲罰を受けることになってしまうんです。でも、殴られた場合は他者によって就業が難しくなるということなので、その非はなくなるんですよ。