真相が明らかにされることなくエプスタイン氏は死亡
エプスタイン氏の捜査の過程では、秘書が持っていた黒革の手帳の存在も明らかになった。著名人の連絡先が書き込まれた手帳には、若い女性とみられる名前も書き込まれており、なかにはその関係を示唆するような書き込みも。FBIがエプスタイン氏を組織的な少女売春組織の要とみて捜査を始めた理由の一つでもある。
ただ、その真相のすべてが明らかになることはない。同年8月、エプスタイン氏は収容先のニューヨーク・マンハッタンの独房で首をつって死亡しているのが確認される。ニューヨーク市は自殺と発表したが、英王室までも巻き込んだ陰謀論に発展したことは想像に難くない。
#MeTooムーブメントも勢いを見せるなか、未成年相手の買春行為とあって欧米のメディアの矛先はあらゆる方向に向いた。矢が放たれた的の一つが、MITメディアラボだった。
伊藤氏とエプスタイン氏のただならぬ関係
当初、伊藤氏はほかの著名人同様、謝罪だけで終わると思っていたかもしれない。
だが、米の調査報道やメディアラボの自主調査が明かしたのは、伊藤氏とエプスタイン氏のただならぬ関係だった。
エプスタイン氏はメディアラボの大口のスポンサーだった。メディアラボだけではない。科学的な研究に莫大な金額を投資してきた。米ニューヨーク・マガジン誌はエプスタイン氏が科学者のもとを直接訪れては「人間の脳は本当にコンピューターと別物なのか」「なぜダーウィニズムが支配する世の中で利他主義も成立するのか」などと根本的な疑問を投げかけると同時に資金を投入してきた過去を、疑惑が持ち上がる前の02年の記事で明かしている。
問題は、エプスタイン氏が13年の時点で一度、少女買春の疑いで収監されていることだ。全米を揺るがしたスキャンダルを、米国暮らしが長い伊藤氏が知らないわけはない。
未成年に対するわいせつ行為は、欧米では特に禁忌とされてきた。それは人間の尊厳を踏みにじる行為だとされているからだ。それでも、資金提供は続いたし、メディアラボもあえてそれを拒まなかった。