積極的にエプスタイン氏隠しに加担
続いただけではない。メディアラボ内の他の眼をさけるためか、エプスタイン氏の投資は匿名でなされるようになった。伊藤氏にエプスタイン氏と手を切るように忠告する者もあったが、無視された。メディアラボ創業者のニコラス・ネグロポンテ氏も伊藤氏をバックアップしたとされる。
研究は常に資金を欲する。そして、一義的には資金に色はない。だが、少女の涙で汚れた手を経た金で研究を進めることが倫理的に許されるのか。研究資金の提供は税法上も優遇される。小児性愛者にそんな恩恵を持たせていいのか。疑問は尽きない。
だが、伊藤氏が選択したのはその疑問には目をつぶることだった。
単なる資金提供者と受領者の関係にとどまらず、メディアラボの調査は、伊藤氏が積極的にエプスタイン氏隠しに加担し資金を継続して受け取っていたと暴いた。ファンドマネジャーとしては敏腕だったかもしれないが、そもそもAIと倫理などを論じる側として、不適切だったとのそしりは免れない。
当初は謝罪だけで済ませようとした姿勢も、組織の運営者としての危機対応への疑念を巻き起こした。メディアラボの所長だけでなく、ハーバード大学の客員教授職など多くの公職を辞めざるをえなくなった所以だ。
海外との連携、AIや倫理の問題にどう向き合うのか
数年前ならIT業界や学界に引っ張りだこだったであろう伊藤氏をデジタル庁がヘッドハンティングできたのも、裏を返せば世界から見放されていたから、ともいえる。
デジタル庁ではIT革命で先行する海外との連携も必須だが、少女買春した富豪との関係を断たなかったというレッテルの貼られた伊藤氏に、海外の枢要な国がすんなり手を差し伸べることはなかったに違いない。また、IT業界発展の芽を育てていくだけでなく、当然、AIや倫理の問題などにも直面することになる。デジタル革命を進めれば進めるほど、既存の体制との軋轢も強まっただろう。
エプスタイン氏との関係すら断てなかった人間が、そんな道に組織を導けるのか。そんな疑念も膨らんでか、官邸肝いりの新官庁は人事で発足前から躓いた。一度注いだ海外からの厳しい視線から、デジタル庁はもはや逃れられなくなった。伊藤氏の代わりに誰が火中の栗を拾うのか。