「裸踊り? それ私の得意芸ですわ!!」
サラリーマン漫画の金字塔「課長 島耕作」(弘兼憲史氏著)にも“裸踊り”のエピソードがあります(※第81話)。
主人公・島耕作は謝罪を兼ねた取引先との宴会で、先方に“裸踊り”を迫られます。
「冗談じゃない!! 何で俺がそこまでやらなきゃならないんだ」と固まる島。宴席の空気は凍りつき、あわやというとき「え、何ですか? 裸踊り? それ私の得意芸ですわ!!」と島の上司・中沢部長が名乗り出ます。
自分に代わって全裸で“かっぽれ踊り”を披露し、場を沸かせた上司の勇姿に島は涙し、「サラリーマン失格です。自分がいかに底の浅い人間か思い知らされました」とうなだれます。
中沢部長は、自分も若いころ、宴席でパンツの上からふんどしを巻いて“お座敷相撲”を取らされ、屈辱感に沈んだことを打ち明けます。その上で「これが会社なんだ。男の仕事というのはこういうものなんだってわかった。脆弱な知識とかプライドとかは関係ない。わかってしまえば、あとは怖いもんなしだ。仕事にも自信がわいてパワーもついた」と語り、彼の矜持に島は深く感銘を受けるのです。
このエピソードはながらく“神回”と言われてきました。中沢部長が場を収めなければ先方との関係は悪化し、会社は痛手を負ったでしょう。自分がピエロになって若手を守り、取引先もなごませた彼は「かっけぇ!」「中沢部長しか勝たん」と絶賛されたものです。
しかし令和の視点で見ると「待って待って! 登場人物全員待って! これってパワハラだしセクハラじゃないの!?」と、驚いてしまうのも無理はありません。立場の弱い人に裸を強要し、なおかつ笑いものにする会社なんて、今の時代なら大炎上待ったなし。
ただ、若者が露出度の高い恰好をしているからと言って、すべてがダメということにはならないはずです。
たとえば同じ舞台「少年たち」には、他にも出演者が総出で上衣を脱ぎ、「闇を突き抜けて」というナンバーを歌い踊るシーンがあります。
ここは少年囚たちが怒りや嘆き、もどかしさをほとばしらせる場面で、裸の上半身は冒しがたい彼らの自由を、着衣の下半身はままならぬ虜の身を表しているように見えます。
本シーンのようにテーマがあって、そこに蔑みや笑いが潜まない“裸”であれば、不快感を覚える人は少ないでしょう。