そのため、駅名に「蚕室」という地名が入ると、登記上は新川である駅周辺の不動産価格もつられて上昇しかねない。不動産価格が上昇すると賃借人は家賃が上がり、地主は税金に加えて、保有財産が基準となっている保険料等も高くなる。住民たちは駅名変更に懸念を抱いた。
そうした紆余曲折を経て、ソウル市地名委員会は「新川」駅を「蚕室セネ」駅とすることを決定。「セ(새)」は新しい、「ネ(내)」は川を意味する韓国の固有語で、もともとの「新川」を言い換えた形になった。
しかし、2016年12月15日から正式に改称されると、今度は新たな問題が発生した。この改称により、地下鉄2号線では、蚕室セネ駅、蚕室駅、蚕室ナル駅の3駅が連続することになり、駅名を間違えて降りる人が続出したのだ。
筆者もソウル市に“間違い”を指摘してみたら…
こうした外国語表記などの問題に対応するため、ソウル市は2012年から市に改善を提言する「外国人生活モニター」を制度化し、筆者も17年からこの制度下で、市に度々提言を行なっている。
一例を挙げると、ソウルに居住する日本人の間で、地下鉄3号線・6号線の薬水(ヤクス)駅が「ヤッス」、3号線の玉水(オクス)駅が「オッス」と表記されていることが話題になっていたため、ソウル市に指摘してみた。
すると、地下鉄3号線は正しい表記に直されたが(写真14、15)、なぜか6号線はいまだ「ヤッス」のままである(写真16、17)。
日本語表記の改善は、韓国語を読むことができない日本人にとっては有り難いが、筆者はソウルに居住する日本人から“笑いのネタ”が消えるのは淋しいという批判を受けており、直さずにいて欲しいと密かに思う気持ちも少しある。
撮影=佐々木和義
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