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現役時代に「セカンドキャリアに備える」ことの難しさ

 プロ野球選手の仕事は、試合に出場してチームの勝利に貢献し、成績を残すことだ。そして結果を残せばその対価として高額な年俸がもらえる。ご存じのように、「プロ野球選手」という職業は頑張り次第で、一生食うに困らないほどの金額を稼ぐチャンスがある。

 当然、プロ野球選手になった以上は、皆いかにして結果を残すかを考える。

 しかし、シーズン終盤に差し掛かっていくにつれて皆が同じ境遇ではなくなっていく。二軍生活が長くなったベテランや、なかなか芽の出ない若手、ケガが治る見込みのない選手…彼らはシーズン終盤になると、嫌でも「戦力外」を意識してしまうものだ。

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今年で現役引退を表明した日ハムの斎藤佑樹投手。人気選手にはすぐに解説などの仕事もあるが… ©文藝春秋

 普通に考えれば、そのような選手はシーズン中にセカンドキャリアを見据えた準備を始めてもおかしなことではない。ところが、シーズンが終わる前から「次」に備えていることを、周りの選手や監督・コーチには言えないのだ。厳密に言えば、言えないことはないが非常に言いづらい雰囲気がある。

「そんなことをしないで野球に集中しろ」「野球は諦めたのか」――。そう思われそうでならないからだ。プロ野球選手の引退時の平均年齢は28~29歳。一般的な企業の定年が65歳だとすれば、引退後の生活は35年以上もある。当然ながら現役引退後の方がはるかに長い。にもかかわらず、戦力外通告を受けるまでセカンドキャリアのことを考えることが難しい。本来、空いた時間での情報収集や自己分析など、実は出来ることはあるはずなのだが、そんな雰囲気が選手が次への準備を始める妨げになっているのだ。

現役時代に「引退後のキャリア相談」をチームメイトにすることは難しかったという ©文藝春秋

社会へ出ることに対する不安を持つ選手たち

 逆に選手の方でも、プロ野球というある種の閉鎖空間から一般社会へ出ることに関心はあるが、なかなか一歩を踏み出せないケースも多い。

 ほとんどのプロ野球選手は社会人として働いた経験が無い。それ故、社会にはどんな仕事があり、どのように働いているのかイメージすることが難しい。また、大学生の就活のように企業研究やインターンなど、社会のことを学ぶ機会もなければ、学ぶ方法を教えてもらうこともない。結果として社会を知る機会がないまま引退を迎えることになる。

 高卒、大卒の選手はもちろんのこと社会人野球を経て入団した選手でも、会社では他の社員と同様の業務をこなしていることは少なく、雑用に近い業務を任せられている場合が多いのだ。