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《絵に例えてみるとね。たとえば海を描いた絵を美術館に展示してから、その前に立って、観に来るお客さんにいちいち「いやー、実はここんとこに船も描くつもりだったんですけど」とか言うよりさ、描けばいいじゃん。船を。

 画家は船を描いた。
 でも観客からは単なる海の絵にしか見えなかった。
 画家は解説なんかしなかった。
 ある日一人の客が、そこに船を見た。
 その客の心の中の、船を見た。

 ――そういうふうに詞を書いてみたいわ。事実と真実の距離、なーんて言っちゃうとキザだけど》(※2)

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「銀の龍の背に乗って」(2003年)

シリアスな歌とは対照的なキャラクターで人気に

 中島みゆきの詞については、これまでに評論家など多くの人がさまざまな解釈を繰り広げてきたが、それは本人が語らないからというのもありそうだ。そもそも取材を受けることも少なく、テレビで歌うこともめったにない。

 かつては『中島みゆきのオールナイトニッポン』などラジオ番組で、シリアスな歌のイメージとは対照的な明るいキャラクターが受け、人気を博したが、もはや若い世代にはそんな彼女を知らない人も多いはずである。だからこそ変に先入観を持つことなく曲を聴けるともいえる。

「地上の星/ヘッドライト・テールライト」(2000年)

 中島の曲がいまなお新しいリスナーを取り込みながら、愛され続けているのは、そんなところにも理由があるのではないか。前出の「空と君のあいだに」のほか、デビューイヤーである1975年に世界歌謡祭グランプリを受賞した「時代」、あるいはドキュメンタリー番組『プロジェクトX~挑戦者たち~』の主題歌「地上の星」など、スタンダードとなっている曲は数知れない。

 なかには「糸」や「ファイト!」のように、もともとはアルバムに収録された知る人ぞ知る曲だったのが、のちにCMやドラマで使われたり、ほかのアーティストがカバーしたのをきっかけに広く受け入れられた作品もある。