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 3番は、大谷がもっとも警戒していた金賢洙(キム・ヒョンス)。大谷はその初球、またも160㎞のまっすぐをアウトローに決める。140㎞台のフォークを交えて金を追い込むと、最後は159㎞のストレートで空振り三振を奪った。

「全体的な攻め方は、1度目のときと大きくは変わりませんでした。嶋(基宏)さんは僕がいつも組んでいるキャッチャーではありませんし、僕のいいところ、悪いところを全部知っているわけでもないので、バッター目線で僕のイヤな球を考えれば、どうしてもまっすぐかフォークかという両極端な配球になります。その中でどうやって抑えようかなと思ったとき、単純な話ですけど、勝ちたい、抑えたいという気持ちの強いほうが勝てると思ったんです。初戦は負けても次がありましたし、お互いがよく知らないという状況で、どっちに転んでもおかしくなかった。ただ準決勝に関しては、韓国の必死さはまったく違っていました。1度は負けた相手と、負けたら終わりの日韓戦を戦うわけですから、初回から何とかしようという気持ちが自然と伝わってきます。国を代表するレベルの選手が必死になって自分を崩しにかかってきてるんですから、気持ちで負けちゃいけない。そこを改めて確認できたのはよかったかなと思います」

 2回、大谷は4番の李大浩に、デッドボールをぶつけてしまう。それでもワンアウトを取ったあと、6番の閔炳憲(ミン・ビョンホン)のバットをへし折って、セカンドゴロのダブルプレー。結局はこの回も、次の3回も、大谷は3人で切り抜けた。さらに4回、3番の金賢洙に対して160㎞のストレートで空振り三振を奪うなど、準決勝の序盤、大谷のギアは明らかにトップに入っていた。

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「あの日、僕は最初から空振りを取れるまっすぐを投げにいっていました。ファウル狙いではなく、空振りを取れるまっすぐを初球からどんどん投げ込んだんです。そうするとかなり疲れるんですけど(笑)、絶対に万が一が起きないよう、コントロールはアバウトでも、気持ちで負けないボールを投げようと思っていました」

©文藝春秋

 しかし、準決勝を自宅のテレビで観戦していた栗山監督は、大谷のこの日のピッチングに、大谷とはまた違った意味での手応えを感じていた。

「気持ちじゃなくて、そこは技術なんだよ。思いっ切り力んで投げたとき、結果を出せるかどうかというのは本当の技術があるかないかで決まってくる。力んでいる状態で、どう自分をコントロールするか。力めるチカラが強ければ強いほど、自分を扱うのが難しくなる。力めちゃうから、強い球が投げられちゃうから、難しい。それをコントロールするために必要なのは技術でしょう。プロはそこを心に持っていってはいけない。そういう心を超えるだけの技術を身につけるのがプロならば、あの日の翔平には、その技術が備わっていたよね」

 アウトローに、160㎞のストレートを決める。その形をベースに、フォームをしっかり固めることができれば、140㎞台後半のフォークもいいところへ落ちる。

 4回裏、好投する大谷に応えるべく、日本の打線に火がついた。ワンアウト1、3塁から8番の平田良介が三遊間を破って、先制の1点をもぎ取る。さらに相手のミスと犠牲フライで2点を加えて、日本がこの回、一挙に3点を奪い、試合の主導権を握った。

試合中にバージョンアップを果たす

 5回、嶋のリードが一変する。

 これまでほとんど投げさせなかったスライダーを織り交ぜてきたのである。4番の李大浩はスライダーを見逃し、5番朴炳鎬はフォークを空振り、6番閔炳憲もスライダーを見逃して、いずれも三振。6回も3人で切り抜けた大谷は、ノーヒットピッチングを続けていた。大谷はここまでのピッチングについて、こう言った。